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「第3回新潟国際アニメーション映画祭」審査員・松本紀子プロデューサー 映画祭の面白さは人に会えること【CINEMORE ACADEMY vol.38】

「第3回新潟国際アニメーション映画祭」審査員・松本紀子プロデューサー 映画祭の面白さは人に会えること【CINEMORE ACADEMY vol.38】

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仕事を作るのがプロデューサーの仕事



Q:松本さんが考えるプロデューサーの仕事とはどんなものでしょうか。


松本:仕事を作るのがプロデューサーの仕事ですね。監督やクリエイターなど、誰かがやりたいことを仕事にして実現させる。私は縁の下の力持ちで全然良いのです。プロデューサーが前に出た方が良ければ出ますが、出なくて済むならそれで良い。それでも作品がうまくいけば何が評価されても自分のことのように嬉しい。プロデューサーの醍醐味は、作品の全てにおいて喜びを共有できること。もちろん結果の責任も取る立場ですが(笑)。


仕事を作るということは、誰にも頼まれてもいない、作らなくていい作品を作ることでもあります。世の中には既に多くの作品が溢れているので、別に私がプロデュースしなくても作品は十分足りている。以前やっていた広告映像(CM)の部署からドワーフに移って、「仕事を作るってこんなに大変なんだ」と思いました。でも一方で、「やりたいことをやる、作りたいものを作るとはこういうことかな」とも思ったのです。


多くのアニメーション作品は受注仕事で成り立っています。受注がダメだとはぜんぜん思わないし、実際にウチも受注仕事をたくさんしています。ただ極端に言えば、受注の仕事ってお金を出している人が「これでいい!」と言えば、つまらなかったとしても成立してしまう。次はないかもしれないけど(笑)。一方、自分で仕事を作るときは、「これでいい!」と言ってくれる人がいないところからのスタートなのです。そこが面白くも難しいところですね。


Q:監督の作りたいものに自分のやりたいことをどう重ねていますか。


松本:監督がやりたいことに自分がやりたいことは重ねません。いかに世の中にウケるかを重ねています。だから、「こんな長い映画、誰も見ませんよ」みたいなことを平気で言っています(笑)。そこは広告をやっていたからこそ鍛えられた部分ですね。広告って、クライアント(広告主)が自分たちのお客さんなのですが、クライアントの後ろには消費者というお客さんがいる。自分のお客さんとして、クライアントだけではなく消費者まで見る必要があるんです。当時の私はクライアント憑依型プロデューサーだったので、CMディレクターが嫌がる「商品の尺をもっと伸ばさないとOK出ませんよ」みたいなことをよく言っていました(笑)。それも全てクライアントの先にいる消費者を思ってこそ。エンターテインメント作品を作るようになった今、そのことがすごく生かされています。


たとえば、ある作品のキャラクターデザインをやっているときに、おじさんのキャラクター案が出たのですが、「こんなキャラクターはモテない、もっと美男子にしろ」と言ったこともあります(笑)。それは「ちゃんとファンがつくキャラにしてくださいよ」ということなんです。作品を壊さない範囲での意見はどんどん言いますし、それはより多くの観客に作品を好きになってもらうためのこと。またそれは、映画会社や配信会社が買いやすいものにするためのことでもあります。


Q:そのスタンスは監督との衝突を生みそうですが、どのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。


松本:そこはもう、とことん話します。それしかありません。そんなことでへそを曲げるような関係では共に困難は越えていけませんし(笑)、それがそれぞれの仕事だということはお互いによくわかっていると思います。もちろん私の意見が通らないこともあります。とにかく微に入り細に入り話をしていますね。


Q:最後に、観客の皆さんへメッセージをお願いします。


松本:新潟はバラエティーに富んだ作品やプログラムがあり、映画ファンやアニメファン、製作者から学生まで、いろんな人に向けられた映画祭だと思います。ぜひ足を運んでいただき、映画祭の雰囲気を感じてもらえると嬉しいです。特に新潟にお住まいの皆さんは気軽に来ることができるので、ぜひお越しください。





松本紀子

広告映像業界からキャリアをスタート。1998年の「どーもくん」2003年「こまねこ」が転機となり、ドワーフの立ち上げに参加。タイムレスに楽しめる高品質なコマ撮りのコンテンツの制作で、日本のスタジオとしては、いちはやく配信のグローバル・プラットフォームとの仕事を始めた。Netflixシリーズ『リラックマとカオルさん』(2019)『リラックマと遊園地』(2022)が話題に。現在はコマ撮りやキャラクターを強みとしながら、その常識を超え、手法や会社の枠にとらわれない新しい才能や技術を使った作品を企画し、更には日本の枠を飛び越えて制作することを目指している。最新作は堤大介監督(元ピクサー)の短編映画『ボトルジョージ』と、パイロット版で業界の度肝を抜いた『HIDARI』(長編企画進行中)。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。




第3回新潟国際アニメーション映画祭

3rd NIIGATA INTERNATIONAL ANIMATION FILM 

主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会 企画制作:ユーロスペース+ジェンコ 

会期:2025年3月15日(土)〜3月20日(木)

公式サイト:https://niigata-iaff.net/

公式 X:@NIAFF_animation

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