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『ベイビーガール』ハリナ・ライン監督 これは“欲望”の映画ではない【Director’s Interview Vol.480】

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『ベイビーガール』ハリナ・ライン監督 これは“欲望”の映画ではない【Director’s Interview Vol.480】

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中年の危機と破滅願望



Q:脚本の執筆にあたり、どんなリサーチをしましたか。


ライン:ロボット工学やロボット・オートメーションを正確に描くために業界の構造や企業文化を含めてリサーチしましたし、私が知らないBDSM(※)の世界も調査しました。約5年前の時点でさえ、西洋精神医学のハンドブックによれば、BDSM、特にマゾヒズムは治療が必要な病気だとみなされていたのです。しかし私の考えは、お互いに同意を得て安全に行われるかぎり、こうしたファンタジーは許されるべきで、恥じるものではないということ。その一方、サディズムやマゾヒズムが精神的トラウマに由来するのか、あるいは生来のものなのかが疑問でした。リサーチの結果、その両方も、どちらか一方もありうるというのが私の見解です。


(※)B:ボンデージ(拘束)、D:ディシプリン(体罰)、S:サディズム(加虐)、M:マゾヒズム(被虐)



『ベイビーガール』© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


Q:過去のエロティック・スリラーに登場した権力者の男性には破滅願望があったように思います。ロミーにも破滅願望があったのでしょうか?


ライン:その通りです。この脚本を通して描きたかったもののひとつが、人が生まれ変わるために人生を壊そうとする「中年の危機」でした。あきらかにロミーは意志をもって人生を破壊しようとしているにもかかわらず、自分ではそのことに気づかず、むしろ「そんなことはしたくない」とさえ思っている――けれども心のどこかでは、何もかもを破壊し、そのあとに何が残るかを知りたがっているのです。


私たちは誰でも、人生のあらゆる局面で行き詰まりを感じます。仕事や人間関係、友情、家庭、経済状況、親であること――そこからどうすれば逃げられるのか、自分を解放できるのか。このまま死んでしまうかもしれないという状況をいかに変えられるのか。その方法が見つからず、アルコールやセックス、恋愛に依存し、あたかも自分が変わったかのような幻想に頼る人もいます。


Q:ロミーもそのひとりだということですね。


ライン:結局のところ、ロミーは自分の本心を夫に伝える方法がわからないだけなのです。夫との間で、親密な話を普通にできないだけ。「私にはこういう性的嗜好が、性的な攻撃性があって」と言えない。それは実存的危機のメタファーで、彼女は「私は何者なのか、どんな女性なのか」を表現できないのです。だから、彼女がどれだけ完璧になろうとしても意味がありません。あくまでも自分を解放し、欠点や暗い部分を含めたすべてを受け入れなければいけないのです。自分の魂の中にしか解放はありませんから。





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