
© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『ベイビーガール』ハリナ・ライン監督 これは“欲望”の映画ではない【Director’s Interview Vol.480】
若いインターン、心優しい夫
Q:ロミーの周囲にいる2人の男性についてもお聞かせください。若いサミュエルは、過去のエロティック・スリラーで描かれた女性と同じくファンタジー的な人物ですが、この男性の“人間らしさ”をどのように捉えていましたか?
ライン:私とハリス(・ディキンソン)は、サミュエルをなるべくリアルな人間にしたいと考えていました。単なるファンタジーではなく、深みと複雑さを与えたかったのです。ロミーたちの別荘で、サミュエルはロミーの夫や子どもたちに向けて自分の父親の話をしますよね。哲学の教師で詩人だった、元格闘家でとても強かった――もちろんすべてが大嘘です。彼は、自分が思う「男らしさ」をでっち上げている。現在の社会には「男らしさ」を求めながら、自分の道を見つけられずにいる若い男性がたくさんいます。私が興味を抱いたのは彼らの弱さでした。ロミーが「私はどんな人?」と自問するのと同じように、サミュエルもまた、自分がどんな人間で、何をすべきかがわからずにいるのです。
Q:心優しく穏やかな夫のジェイコブ役に、セクシーでマッチョなイメージのアントニオ・バンデラスを配役したのはなぜですか?
ライン:ロミーの夫を演じるのは、男らしくマッチョな人がいいと思っていました。なぜならジェイコブは、ロミーが理想とするような支配的な男性の特徴を備えていながら、ロミーの要望に応えられないから。2人は互いに羞恥心があり、ジェイコブはロミーの希望に応えると自分が悪人のように感じてしまう。だから夫婦揃って「やめておこう」と思い、寝室ではいつものように建設的な自分たちではいられなくなるのです。けれどもロミーは若いサミュエルが相手なら、赤ちゃんに戻ったかのように自分の欲望を感じられる。アントニオ・バンデラスが夫を演じることで、すべては妻の問題であることを明確に示せると感じました。
『ベイビーガール』© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
Q:ジェイコブが舞台演出家という設定なのは、監督自身の舞台のキャリアが参考になっているのでしょうか?
ライン:特にそれはありません。重要なのは、ジェイコブがヘンリック・イプセンの「ヘッダ・ガブラー」を演出していること。私の大好きな戯曲で、危機に陥った女性が異人種間の結婚に解決策を求めつつ、昔の恋人と浮気をする話。すなわち自己を解放したい女性の物語です。ジェイコブは演出家として、「女優が戯曲を理解していない」と言いますよね。「誰もがこの戯曲のテーマは欲望だと言うけれど、本当のテーマは自己破壊だ」と。このセリフは、本作に関する私自身の意思表示です。これは欲望ではなく、実存的危機を描いた映画なのだと。ロミーがすべてを破壊し、「一度死んで生まれ変わろうとする」のは「ヘッダ・ガブラー」そのままですよね。