言語の音楽性が導く、他言語での映画制作
Q:「El Mal」のミュージカルシーンは、曲や振り付けはもちろん、カメラワークや照明も見事に一体化していて素晴らしい仕上がりです。ご自身の中ではどのようなコンセプトがあり、具体的にどのように作っていったのでしょうか。
オーディアール:「El Mal」と「Mi Camino」に関しては、ステディーカムを使い、コントラストのあるライティングを施して、ミュージックビデオ(以下、MV)を作るように撮影しました。MVを見るのが大好きなので、自分のお気に入りや印象に残っているMVをリファレンスとしてスタッフに共有しました。一方、冒頭のリタが市場で歌うシーンなどは、オペラのような舞台歌劇のテイストを取り入れています。
ミュージカルに限らず、この映画では色んなジャンルを登場させました。テレビのメロドラマのようなシーンもあれば、麻薬取引にまつわる犯罪ドラマのシーンもある。そしてミュージックビデオのようなシーンもあったりと、いろんなジャンルを取り入れながら物語が進む構成になっています。
『エミリア・ペレス』 © 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA PHOTO:©Shanna Besson
Q:本作を含め、母国語であるフランス語以外の様々な国の言語で映画を作られてきました。あなたにとって言語の違いは、演出および映画制作全体にどのような影響がありますか。
オーディアール:自分が話さない言語で撮影をすることは、その言語の音楽性のような部分が導いてくれる感覚があります。もし『エミリア・ペレス』をフランス語で撮ったとしたらどうなったのかと言われると、うまく説明できないのですが…。ただ、知らない言語でやった方が、細かいディテールよりも全体像を見ながら作っていくことができるのかもしれません。
Q:本作も然り、あなたの手がけてきた映画の登場人物たちが抱える葛藤は、観ている私たちにも強く迫ってくる印象があります。
オーディアール:普通にいそうな人でありながら、複雑さを帯びていて内面にいろんな葛藤を抱えている。そういった人たちを描くのが好きですね。ゾーイ・サルダナが演じたリタという弁護士も、最初はいろいろ悩みを抱えて打算的に仕事をしていたのに、エミリアとの出会いにより野心的になっていく。そうやって人が変化していく部分も面白い。いろいろと問題を抱えている人を描いた方が面白い映画になるのだと思います。
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監督/脚本:ジャック・オーディアール
1952年4月30日、フランス、パリ生まれ。父親は脚本家で、叔父はプロデューサーという映画一家に育つ。大学で文学と哲学を専攻した後、編集技師として映画界に携わるようになる。その後、1981年から脚本家としての活動を開始し、1994年に『天使が隣で眠る夜』で映画監督デビュー。同作でセザール賞を3部門受賞し、続く『つつましき詐欺師』(96)でカンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞した。カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞した『預言者』(09)、同じくカンヌでパルム・ドールを受賞した『ディーパンの闘い』(15)、ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いた『ゴールデン・リバー』(18)などがある。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『エミリア・ペレス』
3月28日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
配給:ギャガ
制作:サンローラン プロダクション by アンソニー・ヴァカレロ
© 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA
PHOTO:©Shanna Besson
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