大事なのはアーティストの主体性
Q:本作では彼女たちのライブを中心にそれぞれの思いが綴られるような構成になっています。具体的にどのように作っていったのでしょうか。
清水:「Nippon Calling Tour 2024」の代々木第一体育館の千秋楽ライブと、新撮するドキュメンタリーを混ぜていくことが最初から決まっていた中で、全編にわたって音楽を感じ続ける映画としてどう構築していけるかを考えていきました。
まずは、何を撮ったら面白くなるのか企画段階でアイデアをたくさん出して、それを4人に相談していきました。すると「だったら、これはどうか」と彼女たちからもアイデアが返ってきた。音楽映画はアーティストの主体性が大事なので、こちらから強制したりすることはやりたくない。企画のキャッチボールをしながら、出来る限り彼女たちが自発的にやりたいと言ったことをやろうとしていました。
たとえば、リーダーズに日本の美意識みたいなものを感じていた中で、「瞑想がやりたい!」とアイデアが出てきた。彼女たちが持っている振れ幅を表現したかったので、ライブでの大きな音と動的な身体性とは反対にある静的な瞑想は、映画の緩急を作るのにピッタリでした。そういったアイデアをどんどん具現化して撮影していきました。
『青春イノシシ ATARASHII GAKKO! THE MOVIE』©2025, ASOBISYSTEM / TV ASAHI MUSIC / TWIN PLANET & CJ 4DPLEX Japan
今回はドキュメンタリーでありながらも、セットアップの要素も多々あると思っています。こちらはシチュエーションを準備して長回しをして、後は好きにやってくださいというスタイル。僕は時々、質問を投げかけるだけで、あとは遠くから見つめているだけでした。助監督から「監督、ここで何をやってもらいますか」と問われると「それは4人に決めてもらいたいです」と言うことも多かったと思います(笑)。僕がそこで何かを作るのではなく、あくまでも彼女たちから出てくる予定調和ではない行動を捉えていく。それが余白を持ちながら繋がっていくことで、1つの意味を感じる作品になると考えていました。ゴールデン街での路上パフォーマンスシーンも、スタートと終わりの位置を決めて途中ローアングルを挟んで欲しいとカメラマンにリスクエストしただけで、あとは4人とカメラマンの林さんにお任せしました。本当に短い時間で撮ったとは思えないパフォーマンスとカメラワークで鳥肌が立ちました。あのシーンにはオペラのような演劇の要素を感じたと映画を観た方に感想で言われました。今村昌平の『人間蒸発』(67)のような虚実皮膜の境界線を大事にしたドキュメンタリー手法が好きなので、自然にそういうスタイルを取り入れて撮っていったと思います。