役者に合わせて脚本を変更
Q:役者への演出はどのように行われたのでしょうか。
板橋:今回は4人が主役のような話なので、そこが悩みどころでしたね。そこで、各キャラクターに人柄がマッチするような視点でキャスティングさせていただき、役が決まった役者さんに合わせて脚本を修正しました。各キャラクターのバックグラウンドを詳細に書いたものを役者さんにお渡して、それを元に読み合わせの段階で擦り合わせていきました。そのおかげで、撮影現場では4人が集まって演技してもらえば、僕はそれを見守るだけでよかった。特に演出みたいなことはしておらず、ちょっと違うなと思ったら、そこを調整するくらいでした。
また、今回は順撮りだったため、数十年ぶりに会うという物語の設定と同じような状況で撮影することができました。撮影を重ねるごとに徐々にお互いをわかっていき、僕も役者さんたちも同じ時間をかけてキャラクターの厚みを作ることができた。そうやって撮影できたことが意外とうまくいったと思います。
Q:役者さんはオーディションで選ばれたのでしょうか。
板橋:基本的にはオーディションです。 ただ、4人の中心になる山上役だけは、なかなか見つからずに苦労しました。そこでプロデューサーから、高橋泉さんと一緒に映像ユニット「群青いろ」で活躍されている廣末哲万さんを紹介されて、やっと決まった感じでした。
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Q:会話の面白さも魅力ですが、全て脚本通りだったのでしょうか。
板橋:基本は脚本通りですが、役者さんたちには「自分の好きな言葉で話してください」とお願いしたので、部分的にはアドリブになった箇所もあります。
Q:現場のセリフは全て同録されたのでしょうか。
板橋:同録です。夏の撮影はとにかくセミがうるさかったので、撮影後に全セリフをアフレコしたのですが、これが全然合わなかった。同録のセリフは現場の空気感とテンションから出た言葉だったので、やっぱりそっちの方が合うんですね。ほとんどのセリフをアフレコから同録したものに戻しました。
Q:自然のインサートショットが多く、鹿が出てきた時は驚きました。
板橋:鹿はロケハンをしている時に偶然遭遇したので、慌ててカメラを回しました。撮影した場所は僕の地元のあきる野市ですが、鹿を見たのはそれが最初で最後ですね。それまで一度も見たことなかったので、本当に驚きました。他のインサートショットは、この話を思い浮かんだ時から毎年少しずつ撮り溜めたものです。元々カメラが好きだったこともあり「いつか絶対に自分の映画で使うぞ」という気持ちで撮っていました。セミの羽化もこのために一発撮りしたものです。