スタンダードサイズに込めた思い
Q:画面サイズが4:3のスタンダードです。そこの意図があれば教えてください。
板橋:僕の中で画面のルールがあって、シネスコは世界観を見せたいとき、ビスタは物語を見せたいとき、そして4:3のスタンダードは人物を見せたいときに、それぞれ使うものだと考えています。僕はフィルムで写真を撮ったりもするのですが、中判カメラは大体が4:3の比率になっていて、それで人物を撮るとすごく良い感じになるんです。今回は物語も大事ですが、キャラクターを見てもらって彼らに愛着を持って欲しかった。その理由から4:3で撮影しました。また、夏の入道雲もしっかり見せたかったので、空が高く見せられることも4:3で撮影した理由のひとつでした。
『ひみつきちのつくりかた』© 2025 emir heart Inc.
Q:普段のお仕事ではTVCMを中心とした短い尺の映像編集をされていますが、長尺映画の編集はいかがでしたか。
板橋:大変でしたね。この作品は、初夏と夏、そして冬という3幕構成になっていて、各幕ごとに編集しました。だから各幕で作りがちょっと違う感じになっています。それぞれを作って見直して、全幕をつなげて見直してと、かなり大変でした。
Q:確かに前半と後半では編集のテンポが違った印象がありました。
板橋:前半は漫才の掛け合いのような、テンポのよいカットで会話を見せていきました。後半は話がディープになっていくこともあり、役者さんの表情をしっかり見せたかったので、編集もゆったりになったかなと思います。
Q:現在は主にエディターとして活躍されているからこそ、それゆえ編集が一番苦しかったような感じもあるのでしょうか。
板橋:そうですね。全ての工程で苦しかったですが、編集は孤独にやっていたので途中でわからなくなるんです。もう何度もゲシュタルト崩壊しました(笑)。それで、あえて3週間くらい全く編集しない期間を設けました。そうやって時間を置いて改めて見直すと、直すべきところがやっと見えてきた。最終的には納得いく仕上がりになりました。
Q:脚本や編集作業で第三者にアドバイスを求めるようなことはありましたか。
板橋:脚本も編集もそうですが、友人や家族に見せてアドバイスをもらっていました。主演の廣末さんはご自身で監督もされているので、編集したものを見てもらい、アドバイスしていただきました。ラストシーンは廣末さんの助言を元に変えたところもあります。同じくノリ役の藤⽥健彦さんからもアドバイスをいただき、編集をやり直した部分がありました。
Q:影響を受けた好きな映画や監督を教えてください。
板橋:たくさんいるのですが、この映画に関してはマーティン・マークドナーとポール・トーマス・アンダーソンですね。もう大好きです。オープニングのスローモーションはザック・スナイダーの影響です。実はもっとザック・スナイダーっぽい画を撮ったのですが、さすがに雰囲気やトーンが変わり過ぎるので、採用には至りませんでした。北野武監督もすごく好きで、あの急に突き放される感じが良いんです。この4人には影響を受けていますね。
Q:冒頭のスパゲティに顔を埋めるシーンは『セブン』(95)のオマージュですよね(笑)。
板橋:それ本当にみんなに言われるんです(笑)。そうですね。『セブン』にオマージュしていますね。
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監督/脚本/撮影/編集:板橋知也
1994年⽣まれ、東京都出身。東放学園映画専⾨学校映画制作科 卒業。絵画の世界から映像の世界へ——。学⽣時代には「WE LOVE トンボ」絵画コンクール金賞、世界絵画⼤賞展優秀賞など、数々の賞を受賞。その後映画制作の道へ進み、短編映画「SAUDADE」でTUJフィルムフェスティバル金賞を獲得した。2020年の短編映画「ある母」では⾨真国際映画祭最優秀脚本賞をはじめ、立川名画座通り映画祭グランプリ、函館港イルミナシオン映画祭観客賞など、国内各地の映画祭で高い評価を得る。そして2025年、満を持して長編デビュー作『ひみつきちのつくりかた』の脚本・撮影・監督を⼿がけた。視覚的な美しさと心に響く物語性を併せ持つ、新世代の映像作家として注⽬を集めている
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『ひみつきちのつくりかた』
シモキタ-エキマエ-シネマ 『K2』にて公開中!
配給:emir heart Inc.
© 2025 emir heart Inc.