板橋知也監督が、企画・脚本・監督・撮影・編集・その他諸々を務めた長編デビュー作『ひみつきちのつくりかた』。自主制作映画にも関わらず、上映されている映画館のシモキタ-エキマエ-シネマ K2では、連日満席が続いている盛況ぶりだ。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025では観客賞を受賞し、その評価は確固たるものになりつつある。普段はTV-CMのエディターとして活躍する板橋監督は、いかにして本作を作り上げたのか。話をうかがった。
『ひみつきちのつくりかた』あらすじ
50歳を迎えた山上(ケン)は小学校の同級生 佐藤の葬式に参列するため地元へ帰省すると同級生の御手洗(ノリ)、工藤(クドー)、豊永(ミッチー)と再会する。4人は昔話に花を咲かせていると、工藤がある1冊の大学ノートを取り出す。そこに描かれていたのは“ひみつきちの建設計画”。その夏、初老を迎えた男達は、小学生の気持ちを取り戻し“ひみつきち”を作り始める―。
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縦軸の映画から横に広がる映画へ
Q:おじさんたちが秘密基地をつくるという物語は、どのように着想されたのでしょうか。
板橋:25~6歳の時に友人とハイキングに行ったのですが、自然の中にいると「ここに秘密基地を作ってみたいね」という話になったんです。それで実際に秘密基地を作って、その様子を動画に撮れば、ドキュメンタリーみたいに何か面白いことが起きるんじゃないかと。でもそんな時間もないし、そもそも面白いことなんてそんな都合よく起きるものだろうか。だったらいっそのこと、劇映画にしてみるのはどうかなと。それで脚本を書き始めました。
最初は登場人物を自分と同じ年代にして、秘密基地を完成させるまでの話を書いていたのですが、どうも面白くならない。色々考えた挙句、話を横に広げてみようと、登場人物の背景を深掘りすることにしました。秘密基地を作ることで自分たちの人生や死生観を見つめ直す、そんな話にした方が面白いのではないか。でもそう考えると、25~6歳の設定が全然魅力的ではなくなってしまったんです。そこで設定を一気に50歳くらいまでに引き上げたところ、おじさんたちが秘密基地を作っている様子が絵面としても面白いし、人生100年時代のちょうど中間ということで、たくさん経験も積んで来た上この後も未来がある、何だかすごく魅力的だなと。そこから一気に書き進めていきました。
先日、映画監督で脚本家の高橋泉さんが本作を観てくださり、「この映画は“縦軸”がない」との言葉をいただきました。縦軸というのは、秘密基地が完成するか完成しないか、そこに行き着くまでの流れのこと。普通はそこが肝になってくるのですが、この映画はその縦軸を伸ばしていくのではなく、横に広がっていく話なのだと。まさにその通りで、縦軸のところを考えていたら全然面白くならなかったんです。
僕はマーティン・マクドナーが大好きなのですが、『スリー・ビルボード』(17)なんてまさに横に広がっていく話。『スリー・ビルボード』はBlu-rayでもう30回くらい観ているのですが(笑)、改めて観ているときに「これだ!」と思ったんです。
『ひみつきちのつくりかた』© 2025 emir heart Inc.
Q:板橋監督が好きだというザック・スナイダーは、縦軸の映画を作っていますね。
板橋:だから今回はスローモーションを入れて、そこでザック・スナイダーを超リスペクトしています(笑)。
Q:脚本執筆時は20代でしたが、50代の人生経験などはリサーチされたのでしょうか。
板橋:僕は30歳になりましたが、中身は18歳のときと変わらない気もしていて、大人になれなかった自分もいるし、子供になりきれない自分もいる。そういう自分の気持ちを、各登場人物に投影していきました。細かいディテールについては、周りの大人に話を聞き、撮影現場でも役者の皆さんに話を聞きながら作っていきました。
Q:脚本完成までにどのくらいの時間がかかりましたか。
板橋:構想を始めて2〜3年経ってから脚本に着手しました。それまで何も書いていなかったのですが、頭の中にプロットが存在していたおかげで、書き始めてからは意外と早く、2〜3ヶ月ほどで完成しました。