1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『ふつうの子ども』呉美保監督 演出相手はキャストとスタッフ両方です 【Director’s Interview Vol.514】
『ふつうの子ども』呉美保監督 演出相手はキャストとスタッフ両方です 【Director’s Interview Vol.514】

『ふつうの子ども』呉美保監督 演出相手はキャストとスタッフ両方です 【Director’s Interview Vol.514】

PAGES


スタッフに対しても必要な演出



Q:撮影現場では、脚本以外で指針にしているものはありますか。


呉:撮影中は周りが見えなくなることもありますが、「どういう映画を観客として観たいのか」という客観的視点を持つことは意識しています。制作に没入することも大事ですが、映画はあくまでも興行で、観てくださる人がいて成立するもの。思いの丈を注いだものが受け入れてもらえれば嬉しいですが、受け入れてくれる方のために描かなきゃいけないものもある。その視点は常に意識しています。


そして、自分の感覚を理解してくれるスタッフに集まってもらうことも大事。それは決してイエスマンではなく、「なんか違うかも」「こうしたらどう?」とちゃんと言ってくれる人たち。脚本の高田さんなんてまさにそうですし、他のスタッフも皆さんそうですね。映画って豊かなことを描きつつも結局は泥臭い作業なので、まずはスタッフィング、そしてキャスティング、そのバランスにいつも苦心しています。


Q:スタッフやキャストから自分とは違う意見が出た場合は、常に議論されているのでしょうか。


呉:違う意見を持った人を説得できなければ観客も説得できない。そう思うようにしています。意見を伝えて納得させることは自分の仕事ですし、相手の意見に素直に納得させられたら、その意見をありがたく頂戴しています。そこは平等であるべきですね。タイプや好き嫌いの違いはあると思いますが、まずは自分と一緒に作ってくれるスタッフの気持ちをどれだけ盛り上げていけるか。演出とは、キャストだけではなくスタッフに対しても必要なものだと思います。



『ふつうの子ども』©2025「ふつうの子ども」製作委員会


Q:子どもたちへの演出についてお聞かせください。この物語を子どもたちはどこまで理解していたのでしょうか。子どもたちとのコミュニケーションはどのように取りましたか。


呉:ワークショップ形式のオーディションでは、ちゃんと脚本を渡しています。それを子どもたちがどう咀嚼してくれるのか。そして、何度も何度も一緒にシーンを積み重ねて、子どもたちに任せるところは任せる、私が請け負うところは請け負う、という信頼関係を作った上で本番に臨んでいます。だから不安はありませんし、本番もワークショップの延長でやってもらい、それが今までやってきた中の一番であればそれでいいんです。


ただ、実際の本番では力が入ることもあるので、そこは微調整が必要です。「セリフの間を何秒空けて」と具体的に言ったりもしますが、例えば3秒でお願いしたとしても、彼らはせっかちなので3秒なんて1秒になってしまう。それをあらかじめ考慮した上で、私にとって3秒でも、子どもに対しては「5秒だよ」と伝えています。また、あえて詳細は伝えずに「セリフに合わせて顔を右に動かして」など、本人が何故やらされているかわからない指示を出すこともあります。その場合、往々にして段取り臭くなりがちなので、カメラ横から「それはやりすぎ、それはOK」などずっと声を出して指示しています。ただ、困った点もありまして…、編集で繋いでみると、私の声がうるさすぎてせっかくの良いカットも使えないんです。「この声、消せないの!?」と自分自身に腹立たしいし、周りはあきれていましたね(笑)。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『ふつうの子ども』呉美保監督 演出相手はキャストとスタッフ両方です 【Director’s Interview Vol.514】