ケンカする子もあえて採用
Q:嶋田鉄太さん(上田唯士役)、瑠璃さん(三宅心愛役)、味元耀大さん(橋本陽斗役)の“こういう子ども、いるいる”感がすごいですが、それぞれのキャラクターはどのように作られたのでしょうか。
呉:高田さんとは「3人にはある種のベタさが必要だよね」と話していました。『ズッコケ3人組』や『小さな恋のメロディ』のような構図が絶対に欲しくて、観客が目で追いたくなるような魅力的な子たちにこのベタなキャラクターをやってもらいたい。そこは大事なポイントでした。
嶋田鉄太くんはまさに主役で、あの何ともふにゃふにゃした感じを目で追いたくなってしまう。味元耀大くんは普段はすごくおとなしいのですが、彼は憑依型の天才で何にでもなれちゃう。瑠璃ちゃんは演技がほぼ初めてで、心愛役としてオーディションで最後に残した瑠璃ちゃん以外の3人は皆キャリアのある売れっ子でした。そういうプレッシャーにも関わらず、瑠璃ちゃんはすごく背伸びをして「なんでもないですよ」という感じで頑張っていたんです。その姿がまさに心愛だとなと。瑠璃ちゃんだったら心愛としてこの物語を乗り越えられると思い、キャスティングさせていただきました。
『ふつうの子ども』©2025「ふつうの子ども」製作委員会
Q:小学校の様子があまりにも自然で、まるでドキュメンタリーを見ているかのようでした。クラスの雰囲気作りはどのように行われたのでしょうか。
呉:クラスメイトたちも皆ワークショップ形式のオーディションから選ばれた子たちです。ワークショップでは、「この二人でケンカできる?」などシチュエーションを提示しては、都度演技をしてもらっていました。芝居のうまい子もいたのですが、うまいことはそんなには求めていなくて、私の話をどう聞いているか、子ども同士でどんなふうに話しているか等、普段の様子も見ながら、面白いと思う子をチェックしていきました。参加した子どもたちは、子役経験が豊富で整っている顔立ちの子も多かったのですが、演技が初めてのいわゆるふつうの小学生っぽい子も選んでいます。
そうしたワークショップを何度もやっていると、子ども同士が顔見知りになってきてそのうちケンカが始まるんです。通常は、現場の進行を考慮してそういう子は率先して外されてしまうのですが、私はあえて採用しました。そんな子たちが集まっていたから、ケンカする子はいるし、泣く子はいるし、飽きてくる子はいるしで、現場は大変でしたね(笑)。
Q:それぞれの母親たちも“いるいる感”が強かったのですが、何か参考にされたのでしょうか。
呉:親も三者三様に描きましたが、よくよく見ていくと、共感できるような既視感や“身につまされ感”みたいなものを、どの親にも感じると思います。「この親と自分は違う」と思われるのではなく、願わくば、どの親も「なんかわかる〜」と思われる人間であって欲しかった。それは母親だけではなく、父親や先生たちに対してもそうでした。「この子どもにこの親か」と、親子の答え合わせも楽しめますよ。
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監督:呉美保
1977年生まれ、三重県出身。スクリプターとして映画界入りし、初長編脚本『酒井家のしあわせ』で、サンダンス・NHK国際映像作家賞を受賞、06年に同作で映画監督デビュー。『オカンの嫁入り』(10)で新藤兼人賞金賞を受賞。『そこのみにて光輝く』(14)でモントリオール世界映画祭ワールドコンペティション部門最優秀監督賞を受賞、併せて米国アカデミー賞国際長編映画賞日本代表に選出。『きみはいい子』(15)はモスクワ国際映画祭にて最優秀アジア映画賞を受賞。2児の出産を経て8年ぶりに映画復帰、脚本も手掛けた短編『私の一週間(「私たちの声」より)』(23)を監督。9年ぶりの長編作『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(24)が上海国際映画祭コンペティション部門に選出、国内外で高評価を得る。映画の他、執筆活動やCMも手掛けている。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『ふつうの子ども』
9月5日(金)テアトル新宿ほか全国公開
配給:murmur
©2025「ふつうの子ども」製作委員会