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『ふつうの子ども』呉美保監督 演出相手はキャストとスタッフ両方です 【Director’s Interview Vol.514】

『ふつうの子ども』呉美保監督 演出相手はキャストとスタッフ両方です 【Director’s Interview Vol.514】

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画面を彩る眩い光、浅い被写界深度の柔らかなルック、ピカピカに光る最新設備の小学校(廊下と教室を隔てる壁がない!)、などなど、徹底的に明るいトーンで描かれる『ふつうの子ども』は、これまでありそうでなかった子ども映画。令和の子どもたちをポップに描き出す一方で、昭和・平成生まれの大人たちもちゃんと共感できてしまうのは、監督:呉美保 × 脚本:高田亮という10年ぶりのコラボの賜物だろう。


前作『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(24)とは全く異なるアプローチに見える『ふつうの子ども』だが、呉美保監督はいかにして本作を作り上げたのか。話を伺った。



『ふつうの子ども』あらすじ

上田唯士(うえだ・ゆいし)、10才、小学4年生。両親と三人家族、おなかが空いたらごはんを食べる、いたってふつうの男の子。最近、同じクラスの三宅心愛(みやけ・ここあ)が気になっている。環境問題に高い意識を持ち、大人にも臆せず声を挙げる彼女に近づこうと頑張るが、心愛はクラスのちょっぴり問題児、橋本陽斗(はしもと・はると)に惹かれている様子。そんな三人が始めた“環境活動“は、思わぬ方向に転がり出して――。


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セリフの違和感は脚本段階で外す



Q:脚本の高田亮さんとのお仕事は『そこのみにて光輝く』(14)『きみはいい子』(15)以来でしたが、今回はいかがでしたか。


呉:約10年ぶりでしたが、楽しかったです。過去2作は土台になる原作がありましたが、今回は完全オリジナル。どこにでも行けるというその自由度が、恐ろしくもあり、嬉しくもあり(笑)。脚本作りには菅野和佳奈プロデューサーも加わって、3人でディスカッションしながら作っていきました。


Q:『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(以下、フロリダ・プロジェクト)』(17)の日本版を作りたいという菅野さんの思い、60〜70年代の学生運動に対する高田さんの思い、そして、親子で一緒に観られる映画をという呉美保監督の思いと、3人それぞれの思いがあったそうですね。


呉:菅野さんが言っていた『フロリダ・プロジェクト』は、私の中ではこの作品の大きな骨になっていました。私も好きな映画でしたし、ルックも含めて、ああいう明るさを持った映画は日本には少ない。今回はそんな垢抜けたものを撮れたらいいなと。また、自分が子供の頃に好きだった『スタンド・バイ・ミー』(86)や『ぼくらの七日間戦争』(88)など、あの“褪せない感じ”への憧れもあり、ああいう存在になれたら…という思いもありました。令和の今のこの瞬間を描いて、それがフィルムの中に残り続けてほしい。そして誰かがふと思い出したときに、改めて観たいと思ってもらえるような、息の長い映画を作りたいなと。


ただ、高田さんと私が作るからには一筋縄ではいかないわけで(笑)。「今までなかったような子ども映画を!」と、言うのは簡単ですが、チャレンジする部分はかなり大きかったですね。『ふつうの子ども』というタイトルですが、そもそもふつうって何やねん?というところから始まりました(笑)。



『ふつうの子ども』©2025「ふつうの子ども」製作委員会


Q:脚本作りでは、尺を踏まえたセリフの量など、演出視点のリクエストも出されたそうですが、具体的にはどのように進められたのでしょうか。


呉:高田さんが書いた脚本をメールで送ってくださるので、読んで気になったところを書き出し、それを元に打合せをしました。高田さんが言うには、脚本打合せでの他の監督は、全体の流れなど大きく概念的なところだけに言及して終わり、というパターンが多いらしいのですが、私は一番細かいみたいです(笑)。


セリフの語尾やト書きとのバランス、役者さんが動いているときに実際にセリフを言えるかどうか、字面ではよくても実際に声に出した時に嘘っぽくならないか、などなど、そういう違和感は脚本段階で無くしておきたい。これは今までの作品でもそうしてきました。今回はそれに加えて、“今”のリアリティを描かなきゃいけない。オーディションに来てくれた子どもたちにも脚本を読んでもらい、『こういうセリフ、実際に言ったりする?』とヒアリングしながら、さらにブラッシュアップしていきました。また、いろんな親や先生の視点なども、実際の取材を通じて積み上げていきました。



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