フレームの中は監督、フレームの外はプロデューサー
Q:16mmフィルムで撮ったのかと思いきや、デジタルでの撮影ということで驚きました。ルックに込めた思いがあればお聞かせください。
芳賀:今回はカラコレ(色調整)を20日間ぐらいやっています(笑)。色が鮮明にパキッと出るデジタルのトーンではなく、少しぼんやりして見えるフィルムトーンの方が、人の温かさみたいなものを感じていただけるかなと。CMではずっとフィルムで撮影してきましたし、そのトーンはさんざん研究してきたもの。これまで培ってきた成果を出すことができましたね。
関:あのトーンは人間の目が見ているものに近いんです。だから優しく感じる。レンズも柔らかかったですしね。
芳賀:レンズは4本しか持っていきませんでした。しかもすごく古いビンテージレンズ。暗くなるとフォーカスを合わせるのが難しいレンズでしたが、逆にレンズが多いと選ぶのに時間も掛かる。そのレンズしかないという意識でロケ地も選びました。今回の家は縦に長いので、人物の切り返しや窓の位置なども考えながらレンズを選んでいます。CMをやっている人間は場数だけは踏んでいるので、場所や人物に応じたレンズの選択は早い判断ができたと思います。
『風のマジム』©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社
Q:プロデューサーと監督の関係において、関さんはどこまでがご自身の領域だと考えていますか。
関:フレームの中は監督のもので、フレームの外は僕の仕事。要は環境を整えるということです。スタッフやキャストが仕事をするための心地良い場所を用意できれば、全体のパフォーマンスもあがりますから。監督が役者に演出することに何かを言うつもりはありませんが、ときに監督は集中してしまうので、視野が狭くなったりすることもある。そうなって方向性が違ってきた時には、最初に掲げた旗印を思い出してもらうよう声をかけています。旗印は一緒に掲げたものですし、全体を俯瞰して見ている僕はそれを把握している。監督に声をかけることも大事な仕事ですね。
僕は制作部として映画界に入ったので、ずっと現場にいる人間なんです。だから監督と一緒に撮影をすることが、プロデューサーの仕事だと思っています。もちろんプロデューサーと名前がつく人には、企画を立てる映画会社の方もいたり、配給のことを考えるビジネスに長けた方もいます。僕の場合は現場で監督と一緒にいるところから始まっているので、今回もそれを存分にやった感じでした。現場を仕切る能力を発揮しないと、僕がいる意味がなくなるので(笑)。
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監督:芳賀薫
1973年生まれ、東京都出身。武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。PYRAMID FILM、THE DIRECTORS GUILDで数々のCM演出を手掛け、2022年に独立。代表的なCM作品に阿部寛が店主を務める『檸檬堂』シリーズ、宮藤官九郎と松坂桃李が兄弟役を演じる『明治安田生命』シリーズ、「答えは雪に聞け」というコピーと共に広瀬すずと村上虹郎の出演が話題となった『JR SKI SKI』CMシリーズ、「その経験は味方だ」というコピーを軸に川口春奈・神木隆之介・木村文乃・田中圭らが働く姿を描いた『TOWN WORK』等がある。また、CM演出だけに止まらず、平井堅『POP STAR』MVや、ミニドラマ『階段のうた season1』、コロナ禍の人間模様を描いたショートフィルム『ハートディスタンス』、舞台『右まわりのおとこ』『ホテルニューオーツカ』等、枠を超えた作品を手掛けており、今回の『風のマジム』は、自身初の映画監督作品となる。
プロデューサー:関友彦
1974年生まれ。学生時代イギリスで脚本いながききよたかと出会い、現地で自主短編映画を制作したことからその歩みをスタート。2000年帰国後フリーランスの制作として多くの国内映画や合作映画の現場を経験し、08年株式会社コギトワークスを設立。また21年より協同組合日本映画製作者協会の理事に就任。24年新藤兼人賞プロデューサー賞受賞。主な参加作品に、ソフィア・コッポラ監督『ロスト・イン・トランスレーション』、羽住英一郎監督『海猿』、クリストファー・ノーラン監督『インセプション』など多数。プロデュース作品に、富永まい監督『ウール100%』、中嶋莞爾監督『クローンは故郷をめざす』、荻上直子監督『めがね』、真田敦監督『ホノカアボーイ』、大森美香監督『プール』、松本佳奈監督『マザーウォーター』、荒木伸二監督『人数の町』、二ノ宮隆太郎監督『逃げきれた夢』、入江悠監督『あんのこと』、石井岳龍監督『箱男』など数多く手掛ける。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『風のマジム』
9月12日(金)全国公開
配給:コギトワークス 共同配給:S・D・P
©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社