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『風のマジム』芳賀薫監督 × 関友彦プロデューサー 話を聞いている側を描く【Director’s Interview Vol.516】

『風のマジム』芳賀薫監督 × 関友彦プロデューサー 話を聞いている側を描く【Director’s Interview Vol.516】

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原田マハ原作の映画『風のマジム』は、契約社員の女性“まじむ”が社内ベンチャーに応募し、成功を掴み取るまでのサクセスストーリー。映画は、ケレン味を効かせた演出を選ばず、決して急かすことなく丁寧にエピソードを積み上げていく。派手な見せ場があるわけではないが、不思議と物語に没入させられ、観ている私たちの心にじわじわと沁みこんでくる。


監督を手掛けたのは長編映画初監督ながら、広告やショートフィルムで活躍してきた芳賀薫。その芳賀監督とタッグを組んだのは、『人数の町』(20)、『あんのこと』(24)、『箱男』(24)など、近年続々と話題作を手掛けている関友彦プロデューサー。芳賀監督と関プロデューサーはいかにして『風のマジム』を作り上げたのか。2人に話を伺った。



『風のマジム』あらすじ

伊波まじむ(伊藤沙莉)は那覇で豆腐店を営む祖母カマル(高畑淳子)と母サヨ子(富田靖子)と暮らしながら、通信会社・琉球アイコムの契約社員として働いている。いつも祖母と一緒に通うバーで、ラム酒の魅力に取り憑かれたまじむは、その原料がサトウキビだと知る。折しも社内ベンチャーコンクールが開催され、まじむは、南大東島産のサトウキビからラム酒を作る企画で応募するが、それはやがて家族、会社、島民をも巻き込む一大プロジェクトへと発展していく。


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時間を経て変わったプロット



Q:本作の企画は以前からお二人で進めていたとのことですが、お二人が知り合ったきっかけを教えてください。


芳賀:2010年頃、関さんから突然電話がかかってきて「一緒に仕事がしたいです」と、三軒茶屋の「どぶろく一心」という小料理屋さんに呼び出されました。映画のプロデューサーというのはすごいところに呼び出すなと(笑)。


関:そのときは化粧品メーカーの仕事でテレビのミニ枠(約3分)ドラマを作る企画があり、その相談をしたくてお会いしました。尺的なこともあって、映画監督ではなくCMで活躍されている方にお願いしたいなと。弊社の脚本家が、とある映画の企画で芳賀さんとご一緒したことがあり、「芳賀さんはすごくクレバーで、アイデアもあって面白かったよ」と評判を聞いたので、「今日空いてますか?」とすぐ電話しました(笑)。その日は朝まで呑みましたね(笑)。もちろん仕事にも興味を持ってくれて、TBSの木曜日21:54〜22:00の枠で「階段のうた」という5分×12話のショートドラマを一緒に作りました。


芳賀:その仕事の後も関さんとの関係は続いていて、役者さんと仲の良い関さんに、CMにはあまり出ない役者さんのキャスティングをお願いしたりしていました。事務所に一緒に行ってもらったりもしましたね。


Q:以前はどのような形で映画化が動いていたのでしょうか。


関:8年ほど前に別の方がこの企画の映画化をしようと動いていました。当時の僕はプロダクションとして参加する形となり、そこで原作を読んだのが最初でした。その流れで監督候補として芳賀さんの名前を挙げ、うちの脚本家と芳賀さんとでプロット開発を進めていたのですが、なかなか成立までいかなかった。1年ほど動いていましたが、企画開発の段階で終わってしまったので、僕の中ではこの企画は無くなったという印象でした。



『風のマジム』©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社


Q:8年経って再び映画化の機会が巡ってくるわけですが、以前と今回で変わったことはありましたか。


芳賀:時代が変わりましたね。以前の段階でも原作を書かれた時からは既に7〜8年くらいが経っていて、コンプライアンスが今ほど叫ばれる時代ではなかった。先輩から厳しく言われたり、深夜まで働いたりすることが普通だった時代。まじむのモデルになった金城さんも、猛烈に頑張って遅くまでお仕事されていたと思います。その後、コロナも経て色々と変わってきた中で、ただ猛烈に頑張る主人公ではなく、今の時代にふさわしい主人公像について考え直しました。


関:8年前のプロットは使用せずに、今回改めて脚本にしたところは大きかったですね。


Q:改めて映画化したいと思われた理由を教えて下さい。 


芳賀:この話には明らかな悪者が出てきません。それぞれの立場でそれぞれが正しいことを言っていて、まじむがちゃんと相手の話を聞き、自分の思いを伝えることで成長していく。こんな話は他になかなか無いなと。映画化する価値を強く感じて、是非監督させてもらいたいと思いました。


関:原田マハさんが書かれる小説は、読み口が優しくサラッと読めるものが多いのですが、この「風のマジム」も同じで、読み始めたら一気に最後まで読めてしまう軽快さがありました。主人公と仲間が仕事で頑張っていく話で、家族の温かさも感じる。誰しもが共感できる題材なので、読んでいて映像が浮かびやすい。お酒を取り扱うということも含めて、映画化しやすい題材だなと。





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