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『こんな事があった』松井良彦監督 18年ぶりの映画制作、変わらない流儀【Director’s Interview Vol.517】

『こんな事があった』松井良彦監督 18年ぶりの映画制作、変わらない流儀【Director’s Interview Vol.517】

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脚本に反映する、当事者の話



Q:福島を舞台に、少年二人、三つの家族を物語の主軸に据えられています。何か着想はあったのでしょうか。


松井:最初は反原発をもっと全面に出した映画にするつもりでした。ですが、原発の状況が日々変わるので、その情報をまとめるだけでもかなり大変。それで発想を変えて、まずは三つの家族の悲哀を心情豊かに描き、その背景に震災と原発事故が浮かびあがるような構成に変えました。その方が観客も入りやすいのではないかと。多くの人には家族がありますから、共感できる部分も多い。


Q:脚本作りから撮影、編集まで、第三者に客観的意見を仰ぐことはありましたか。


松井:うちの撮影現場では、みんなが好きなことを言うようにしています。嫌なことを言われると最初はカチンと来ますが(笑)、でもその後は冷静に判断して、いいものは使おうと。そうでないものは使わなければいいだけですから。スタッフが出したものが僕とは違う意見だったとしても、それが面白ければ採用します。


「セリフをこう変えたいのですが」と俳優から提案があったときは、一度その通りにやってもらいます。その後で脚本通りにやってもらうと、そっちが良くなる場合もある。俳優さん自ら考えたセリフは自然さが出るので、その後続けて脚本のセリフを話してもらうと、自然な演技をした後ゆえ良い方に転がることもあるんです。スタッフやキャストが自分の意見を言うのは、良い映画を作るためには必要なこと。みんなが言いたいことを言って、良い映画になればそれでいいんです。



『こんな事があった』©松井良彦/ Yoshihiko Matsui


Q:セリフに関しての調整は事前の本読みなどで行うのでしょうか。


松井:僕は本読みが嫌いなんですよ。だから現場ですね。


Q:テイクは重ねる方ですか。


松井:ケースによりますが、極力5テイクくらいまでに抑えています。3テイク目くらいまでは新鮮ですが、4〜5テイク目くらいからは俳優が変に考え出してしまうので、自然さが無くなっちゃうんです。


Q:現場は多くの人と一緒に作り上げていく工程ですが、一人で書く脚本作業でアドバイスを求めるようなことはありますか。


松井:アドバイスを求めることはないですが、脚本を書く前に当事者に話を聞くことはよくあります。反原発を押し出そうとしてやめたのは、福島の人たちからいろんな興味深いエピソードを聞かされこともその理由の一つです。『追悼のざわめき』のときは大阪の釜ヶ崎に行って話を聞きましたし、ゲイの映画を撮ったときは東郷健さんに話を聞きにいきました。釜ヶ崎は最初は怖かったのですが、普通に入っていけば向こうは全然ウェルカム。労務者やホームレス、ヤクザといった方々と話をすると、これまた面白い話を聞かせてくれる。東郷さんにプロットを見せた時は「松井さん、男の人と恋愛したことあるの」と言われるくらいにプロットを気に入っていただき、たくさん話をさせてもらいました。そうやって、自分のプロットをどう受け止めてくれるのか当事者に聞くこともありますし、とにかく現地でいろんな人と話をするのが好きですね。その後、自分1人で脚本を書いています。





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