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『アフター・ザ・クエイク』井上剛監督 × 山本晃久プロデューサー 95年の物語を30年後の現代に届ける【Director’s Interview Vol.519】

『アフター・ザ・クエイク』井上剛監督 × 山本晃久プロデューサー 95年の物語を30年後の現代に届ける【Director’s Interview Vol.519】

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地下の世界で起こったもの



Q:今回はNHKでドラマの放送があり、その後映画館でも上映されることになりました。


山本:最初に井上さんから相談されたのが映画を作ることだったので、映画にしたいとは思いつつも、このお話の連なりを映画だけにするのは難しかった。そこで、今日的な感覚で、連作ドラマでそれぞれ独立した各話で完結させ、映画ではそれらを再構成してドラマにはないシーケンスを作ることができれば、映画としてのまとまりを得られるかもしれないなと。そうやって映画として辿り着ければと思っていました。


Q:ドラマと映画を踏まえた上で、具体的にはどのように脚本化されていかれたのでしょうか。


井上:本当に一つずつですね、一つずつ作っていきながら、それらを串刺しするテーマや、ビジュアルなど、映画的に串刺しになるものは何なのかを考えていきました。ただ、そこはなかなか閃かなかったですね。


山本:物語が積み上がっていく先に、「かえるくん、東京を救う」の続きが見えてくるのではないか。そうやって物語を演繹的に作っていくしかなかったので、それを指針に皆で一つ一つやっていきました。



『アフター・ザ・クエイク』©2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ


井上:各話で年代が違うので、その当時を思い返しながら皆で話し合っていました。95年だと「もうすぐ世紀末だ」なんて言っていたなと。そして95年は震災に加えて地下鉄サリン事件も起こっている。一つは天災、一つは人災ですが、両方とも地下から起こったこと。たぶん村上さんはこの本を書かれる時に、それを独特の救い出し方をされたのではないかなと。地下にある一つは地震なのですが、もう一つは何か人間の無意識下にあるようなものを深く描いている。今回改めてそう感じました。そういった、目には見えない別の世界のようなものをどう描いていくか、皆でしきりに話していた気がします。


山本:そこで参考にしていたのは、村上春樹さんの「アンダーグラウンド」という、地下鉄サリン事件の被害者や関係者の方を取材したノンフィクション作品でした。その巻末に書かれている「目じるしのない悪夢」を特に参考にしましたね。村上春樹さんの小説の世界には、異界につながる場所みたいなものが出てくることがある。それもイメージしながら、物語に取り込もうと努力していました。


井上:この映画でやたらと地下が出てくるのは、そういうことなんです。ビジュアルとしても地下鉄が出てきたり、「続・かえるくん、東京を救う」でも地下に降りていくシーンがありますが、あれも自分の意識下に入っていくような感じがあり、30年前まで遡っていくような、もう一つ別の世界に行くような描き方になっています。


Q:その「続・かえるくん、東京を救う」は原作を元にしつつも、大胆な翻案が施されています。物語はどのように作られたのでしょうか。


山本:そこはかなり議論しました。今いるこの世界は95年から良くなっておらず、どこかで分岐点を間違えた感覚があった。その発端が95年だと象徴的に表すためには、あの時の直前の世界と接続しなければならず、それで地下のシーンが出てきたわけです。この部分の作り方は帰納法と演繹法のハイブリッドでしたね。最後にこういう帰結があれば良いけれど、とにかく進もうと。最も苦しんで作った物語でした。


井上:とにかく最後は明るくやろうと思っていたんです。なんというか、冒険譚をやりたいなと。1〜3話で、割とギリギリの感じで進んできたものが、最後それを総括するような抜けのいい感じが欲しかった。原作の「かえるくん、東京を救う」にもちょっと冒険するような感じがあるんです。異界のようなところに入っていくのですが、もしかしたらそこは自分の心の中かもしれず、置き忘れてきたものを見つける旅かもしれない。そんなふうに見えるといいなと。





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