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『さよならはスローボールで』カーソン・ランド監督 人生は変化し続けるからこそ“さよなら”がある【Director’s Interview Vol.521】
中高年のおっちゃんたちが悪態をつきながら草野球をする。98分の上映時間、ほぼそれだけを見せられる映画。それが本作『さよならはスローボールで』の内容だ。取り壊しが決まった馴染みの野球場、今日はその最後の試合。試合終了になれば、再びここで野球をすることはない。そんな事実をわかりながらも、黙々と野球をする男たち。野球をしているだけなのに、何だか人生に重なって見える…。
監督・脚本は、本作が長編デビュー作となる新鋭カーソン・ランド。ランド監督はいかなる思い『さよならはスローボールで』を作り上げたのか。話を伺った。
『さよならはスローボールで』あらすじ
地元で長く愛されてきた野球場<ソルジャーズ・フィールド>は、中学校建設のためもうすぐ取り壊される。毎週末のように過ごしてきたこの球場に別れを告げるべく集まった草野球チームの面々。言葉にできない様々な思いを抱えながら、男たちは“最後の試合”を始める…。
Index
キャラクターを進化させるために
Q:草野球の試合を通した何気ないエピソードの積み重ねがじわじわと心に沁みてきます。脚本はどのように作られたのでしょうか。
ランド:はじまりは、映画の構造に野球の試合をそのまま当てはめるというアイデアでした。新しいアイデアだと思ったし、いろんなキャラクターと時間を共有することもできる。また、この作品はキャラクターの映画であると同時に、場所や風景についての映画でもある。“取り壊される野球場”という場所に惹かれていました。
2人の仲間と一緒に脚本を書き、それぞれの野球の思い出を詰め込みました。映画に出てくるキャラクターは僕ら書き手の投影でもあるんです。そこに役者が想像以上に豊かなものを吹き込んでくれました。撮影スケジュールの関係から、役者には1ヶ月ほど共同生活を営んでもらったのですが、その間に生まれた関係性がそのまま役にも反映され、良い効果を生んでいました。野球経験がある役者も多く、撮影中は皆ノスタルジーに浸っていましたね。それもまた、作品の大事な一部になったと思います。
『さよならはスローボールで』Ⓒ 2024 Eephus Film LLC. All Rights Reserved.
Q:選手たちそれぞれの人生が微かに感じられるところも良かったです。映画に描かれないところで、各キャラクターの背景などは細かく決めていたのでしょうか。
ランド:キャラクター1人につき数ページほどのメモ書きを用意していましたが、それはあくまでも自分用で、役者と共有したわけではありません。私が作った性格で固定するのではなく、あえてオープンにすることで、キャラクターには撮影中に進化してほしかった。
それぞれのキャラターについては、長い時間をかけて役者と話し合いました。最初はzoomのミーティングでしたが、撮影前には実際に会って、皆で野球の練習をしながらリハーサルを進めました。メインとなるキャラクターは20人ほどいるため、人によってはセリフを話せる尺が20秒ぐらいしかなく、その短い時間でキャラクターを観客に分からせる必要がある。ミーティングやリハーサルを重ね、役者とキャラクターを共有できたあとは、セリフの内容は役者に委ねた部分もありました。