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『蟲』平波亘監督 乱歩作品の映画化に自分を投影する意味とは【Director’s Interview Vol.525】

『蟲』平波亘監督 乱歩作品の映画化に自分を投影する意味とは【Director’s Interview Vol.525】

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AIの登場が担ったもの



Q:AIも登場することにより別の視点が発生し、SF的な要素も強まっていきます。


平波:原作の柾木は孤独なので、客観的な別の視点が欲しかった。それは脚本を書いている段階から思い描いていて、その役割を最初は金魚にしていました。柾木が金魚の声を演じて、一人二役で金魚と会話するというシーンを書いていたのですが、撮影で生き物を扱うことは今回の制作環境上リスキーだと制作プロデューサーの山嵜さんに言われまして(笑)。では金魚以外に何があるか考えた時に、「AI がいいな」と単純にひらめいたんです。AIという機械とコミュニケーションしている柾木の姿がすごく滑稽に映るし、もし乱歩が現代に生きていたらAIを登場させていたのではないか。そんな勝手なイメージが僕の中で成立したこともあり、これはもうAIしかないと突き進みました。


Q:AIの登場で近未来の感じが出て、時代が少し曖昧になっています。


平波:「いまではないいつか、ここではないどこか」という設定で物語を作るのが好きなんです。柾木のビジュアルやファッション、彼の住んでいる家など、時代が不明瞭なところにAIという近未来的な要素を放り込むとどんな化学反応が起こるのか。そこは面白く成立したと思います。「機械は心を持ち得るのではないか」というモチーフは、これまでもいろんな映画でありましたが、この作品の中で交錯する幾つもの想いの中に、AIの心も入れ込みたかったのです。



『蟲』©2025「蟲」パートナーズ


Q:主人公のセリフの言い回しなど、原作に準じているような昭和初期の雰囲気がありました。意図したものはありましたか。


平波:フィクションの膜に覆われているような見え方にしたいと思っていたので、フィクション度が強めな芝居を求めていたかもしれません。それは柾木の厭人癖のある偏屈なキャラクターに付随した演出でもあったのですが、そうすることにより、柾木と観客の間で良い意味の距離感ができる。少しハードルが高いのですが、そういう距離を置くことで観客がどう入り込んでいけるのか、以前から挑戦してみたい気持ちがありました。外国映画の字幕は、普段の話し言葉ではない少し変わった文体になることがありますが、ああいう文体や口調に昔から惹かれていました。そういったある種のフィルターを通して観客が物語に触れていくことは、一つの憧れであり目指しているところでもあります。


Q:原作はパブリックドメインになっていますが、小説と翻案のバランスで配慮した点はありましたか。


平波:最初に書いた脚本は、今の倍くらいの量がありました。劇中の柾木はひたすら映画の脚本を書いていますが、僕も柾木と同じように書いていましたね(笑)。小説の描写をそのままやろうとすると、おそらく予算にハマらない。その中で小説へのリスペクトを怠らずにどう脚本に落とし込んでいくのか。柾木が一人の女性に対して思いを遂げるところは守りつつも、あえて小説とは違うラストにはしました。それでも小説の精神性は絶対に反映されるはずだという謎の自信があったので(笑)、まずは脚本を書き上げて、後は現場でキャストやスタッフとディスカッションしながら調整していこうと。現場でのインスピレーションも活かせる行間も考慮しつつ。





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