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『蟲』平波亘監督 乱歩作品の映画化に自分を投影する意味とは【Director’s Interview Vol.525】

『蟲』平波亘監督 乱歩作品の映画化に自分を投影する意味とは【Director’s Interview Vol.525】

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倒錯的な愛をビジュアル化する



Q:主人公の部屋など倒錯的な世界観はどのように作られたのでしょうか。


平波:小説ではヒロインの芙蓉の死体が日を追うごとに腐っていくので、柾木はそれをどうにか止めようとして薬品で鮮度を保とうとします。そういう愛の描かれ方になっているのですが、そこを映画的に脚色する上では、柾木の主観として目に映る彼女の死体は腐食がないようにしたいなと。彼女は死んでいるのに、それでもずっと彼女を愛しているという倒錯的な状況の中で、柾木は彼女のことを映画フィルムに残し続けるという手段を取る。そこでは8mmカメラを柾木に持たせたかったので、カメラマンが持ってきてくれたものを小道具として使わせてもらいました。


また、芙蓉の死体を見た柾木が「オフィーリアみたいだ」と言うセリフがありますが、悲しい死を遂げるオフィーリアのような状況を狭い部屋の中で何とか作り出したかった。買ってきた花を敷き詰めたり、壁に布をかけたりと、かなりこだわりました。スタッフたちも頑張ってくれましたね。変色した死体に色を塗り重ねていく表現も、本当は肌色だけ素直に塗っていればいいものを、いろんな色を重ねてカオスな感じになっていく。あれは柾木の精神状態を表しているのですが、実際に現場でやろうとすると演出的に相当難しかった。それでも、とにかくパレットの上で絵の具を混ぜるカットをひたすら撮っておけば、編集の遊佐和寿さんがなんとかしてくれるだろうと(笑)。結果、思った以上にカオスな編集になっていました。窮屈になっていく柾木の精神世界と裏腹に、カラフルでカオスな色使いになっていく対比は、映画的なビジュアルとして面白いものになりました。


これらはすごく歪んだ倒錯的な愛の形かもしれませんが、そこに自分なりの映画への思いみたいなものを託せることが出来たかなと。「俺はこういうものが好きなんだ!」と色々詰め込むことができました。



『蟲』©2025「蟲」パートナーズ


Q:画面は4:3のスタンダードサイズですが、画角への思いがあれば教えてください。


平波:かねてからスタンダードサイズに惹かれていました。今回は乱歩の世界なので、人物の内面に入り込むような絵作りが多くなる。自分が乱歩に触れていた映像は4:3のテレビでした。それでスタンダードサイズでやりたい旨を佐藤プロデューサーにお伝えしたら、「乱歩でスタンダードはちょっとストレートすぎませんか?」と(笑)。そんなこともあり、スタンダードより少し広いアカデミーサイズ(1.37:1)という変わったサイズ感で撮影しました。ガス・ヴァン・サントの『エレファント』(03)などと同じ画角ですね。印象的にはスタンダードとそこまで変わらないかもしれませんが、独特のフレームで切り取った芝居を見ると、アカデミーサイズにして良かったと思います。カメラマンもこのサイズでしか捉えられない画作りをしてくれました。


Q:影響を受けた映画や監督を教えてください。


平波:物心ついた時から特撮怪奇モノが好きだったので、ウルトラマンなど実相寺昭雄監督が撮った作品を観て育ってきました。そういったルーツのせいかもしれませんが、その当時の映画にはすごく惹かれるものがあります。トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』(74)などはオールタイムベストですね。また、黒沢清監督の『CURE キュア』(97)は人生で最も多く観ていて、僕の映画の教科書です。オールタイムベストで言うと、タヴィアーニ兄弟の『グッドモーニング・バビロン!』(87)というイタリア映画も大好き。イタリアの兄弟がハリウッドに渡って映画作りに参加する話なのですが、映画の中で映画を作るという、自分なりの愛を詰め込むところが良いんですよね。本作でも映画を作ろうとする人間を描いていますが、またいつかそういう愛と夢が詰まった映画を作りたいと思います。



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監督/脚本:平波亘

1978年長野県出身。ENBuゼミナール卒業後、2008年『スケルツォ』で、ぴあフィルムフェスティバル入選。以降、コンスタントに監督作を発表しながら、商業・インディーズ問わず様々な映画に助監督として参加。監督代表作として映画『餓鬼が笑う』『サーチライト-遊星散歩-』『the believers ビリーバーズ』『東京戯曲』、ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』など。インディーズ映画祭の主催や、舞台演出、ミュージックビデオ制作など、その活動は多岐にわたる。監督最新作は『蟲』、ドラマ『俺たちバッドバーバーズ』(2026年1月放送)。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『蟲』

全国順次公開中

配給:アルバトロス・フィルム

©2025「蟲」パートナーズ

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