今年没後60年を迎える江戸川乱歩の3作品「一人二役」「蟲」「白昼夢」を、「RAMPO WORLD」と題してそれぞれ長編映画化。中でも「蟲」は、人間の深い闇が猟奇的かつ幻想的に描かれ、乱歩作品の中でも問題作と言われている。その映像化に挑んだのは、映画『餓鬼が笑う』(22)、連続ドラマ「ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!」(24)の平波亘氏。
平波監督は如何にして映画『蟲』を作り上げたのか。話を伺った。
『蟲』あらすじ
映画監督の柾木は、親の遺産を食い潰しながら引きこもり続けて10年になる。極端に人との接触を嫌う柾木を気に掛ける大学時代からの友人・池内は、刺激を与えようと小劇場の舞台へと連れ出すが、柾木は居酒屋で酒をあおりながら厳しい論評を繰り返すばかりだった。しかし、そこに出演女優の芙蓉が現れると、その反応が一変する。柾木の演技論を熱心に聞く芙蓉に心を動かされ、創作意欲が湧き出してきた柾木は、彼女を主役にした脚本を書き始める。その想いの空回りが、次第に狂気を孕んで、誰も想像だにしない歪んだ愛の物語を奏ではじめる―。
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念願の江戸川乱歩作品
Q:本作はどのような経緯でオファーがきたのでしょうか。
平波:今年は江戸川乱歩没後60年ということで、旧知の佐藤プロデューサーが乱歩原案の映画を3本連続で作る企画を進めていると。そこでお声がけいただきました。昔から乱歩作品と映画の親和性は強く感じていて、実相寺昭雄監督が手がけた乱歩作品などもたくさん観てきました。乱歩の持つ怪奇的なモチーフや、ビジュアルがイメージしやすい文体など、読んだ人の中で十人十色の違うイメージが湧き上がっているのではないか、それが乱歩の持つ自由度なのかなと。自分もいつか乱歩作品を手掛ける日がくればと思っていたので、「ついに来たか!」という感じでした。
Q:乱歩作品はよく読まれていましたか。
平波:初めて図書館で借りた小説が江戸川乱歩の「二銭銅貨」でした。「少年探偵団・怪人二十面相」シリーズなど、小学生の頃から乱歩作品はよく読んでいました。今回お声がけいただいた時点では、どの原作をやるかはまだ決まっていなかったので、久々に乱歩作品を読み返しました。中でも「蟲」は、今読んでもすごく現代性を感じましたね。

『蟲』©2025「蟲」パートナーズ
Q:それで「蟲」を手がけることになったと。
平波:佐藤プロデューサーから「「蟲」はどうか」と挙げていただいたこともあり、スムーズに決まりました。とはいえ、「蟲」は以前『乱歩地獄』(05)という浅野忠信さん主演のオムニバスで実写化されたことがある。しかも幅広く知られている小説なので、この2020年代に改めてどうアプローチできるか。自分は映画では原作モノをやったことがなかったので、面白そうだけどこれは大変だぞと。原作では主人公の人間性がかなり病的で、中盤以降の展開は非常にグロテスク。予算がない中で、江戸川乱歩の精神性をどこまで表現できるかなと。