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『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』マイク・リー監督 巨匠が見つめる黒人女性の心の真実【Director’s Interview Vol.527】
黒人の俳優たちとの新境地
Q:これまでのあなたの映画とは異なり、今回は、すべて黒人のキャストで作られていますが、これまでの俳優たちと比べて変化を感じましたか?
リー:特にそういうものはありませんでした。たまたま、彼らが黒人だっただけで、人種による映画作りの変化はありません。今回、彼らのカルチャーに対して特別な知識や理解を得ることができました。ただ、それはボーナスというか、意外な発見となっただけで、狙ってそうしたわけでありません。黒人のキャラクターはこれまで私の他の映画にも出てきましたし、社会のあらゆる人々について自分の映画では描いてきました。オーストラリアの舞台では、ギリシャ系オーストラリア人が主人公でしたし、英国のナショナル・シアターの舞台ではユダヤ人が軸でした。また、アイルランドでは、カトリックであるリパブリカンとプロテスタントの対立をテーマにした作品も手がけました。つまり、どんな立場の人々が主人公でも、ヒューマニティ(人間性)が柱になるわけです。そして、今回は黒人たちのエリアを見つめた作品を作った。ちなみに次の新作の準備も進めていますが、黒人の人物は出てきません。

『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』© Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U.
Q:パンジーの明るい性格の妹、シャンテルを演じるミシェル・オースティンも本当にいい女優です。彼女は『秘密と嘘』にも出ていましたね。
リー:彼女は私のいくつかの映画に出演してくれましたが、素晴らしい女優だと思います。他人に思いやりがあるし、ウィットもあり、役に強さをもたらします。性格女優で、リアリティのある人物像を演じてきたと思います。パンジー役のマリアンヌと非常にいい関係を築いていたので、今回の映画作りの力になりました。
Q:苦悩する姉のパンジーに向って彼女が言うセリフが印象的ですね――「あなたを理解できないけれど、それでも愛している」。このセリフはどうやって生まれましたか?
リー:非常に長い時間をかけて、この映画に登場する人物像を作ってきました。パンジーやシャンテルを深く掘り下げてきたわけです。さまざまな行動を通じて、その関係を重ねることでセリフが生まれていく。そして、このセリフが登場する墓参りの場面が遂にやってくる。そこで起きたこと、その真実を追ううちに、このセリフが生まれました。ふたりはコミュニケーションが取れたり、取れなかったり、気持ちを分かち合えたり、分かち合えなかったり、そういう経験を重ね、共に生きてきた。このセリフには、そうした関係が託されているわけです。
Q:マリアンヌの演技では、母の日の食事の場面に驚かされました。彼女はそこでヒステリックに笑い始めたかと思うと、やがて泣き出す。喜劇と悲劇が交錯します。この映画自体も、喜劇と悲劇がミックスされた内容ですが、この場面には映画の本質が出ていると思いますか?
リー:確かにそう考えることができるかもしれません。この場面について考えるのは意味があるのかもしれない。そこに映画のひとつの本質が凝縮されている。ただ、映画全体にはもっと深い意味があります。この場面が映画の本質を象徴している、そう言い切ると少し単純すぎると思います。象徴的な場面かもしれませんが、その前の墓地の場面からの流れでこのシーンが出てきますからね。ただ、あなたのいうことにも一理あり、そう考えることも間違いではありません。