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『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』マイク・リー監督 巨匠が見つめる黒人女性の心の真実【Director’s Interview Vol.527】

© Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U.

『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』マイク・リー監督 巨匠が見つめる黒人女性の心の真実【Director’s Interview Vol.527】

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日本の小津安二郎の影響



Q:この映画の撮影監督であるディック・ポープはこれが遺作になりましたが、彼との長年に渡る共同作業はいかがでしたか?


リー:残念ながら、1年ほど前に彼は他界しました。90年代の『ライフ・イズ・スイート』(91)以後、私の作品はすべて彼が手がけています。アーティストとして、コラボレーターとして、撮影監督として彼は本当に素晴らしかった。人物の人間性を思いやる共感者としても優れていました。趣味がよくて、ユーモアを理解する心も持っていた。私とはすごく波長が合って、彼との仕事はいつも楽しかった。彼がいなくなったことに大きな喪失感を感じています。


ポープは他の監督とも多くの仕事を手がけてきました。初期はドキュメンタリーの仕事をしていて、危険な地域も含め、世界中で映画作りを経験している。ミュージック・ビデオも撮っていますが、とても洗練されたスタイルを見せていました。本当に何でもこなせる撮影監督でした。現実感のあるリアルな人物を写す時も、ニュースに出てくるドキュメンタリー風の手法で撮るのではなく、余分なものをそぎ落としながらも、洗練され、構造がしっかりした映像を作ることができる人でした。



『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』© Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U.


Q:あなたに影響を与えた監督のひとりに日本の小津安二郎がいますね、『東京物語』(53)や『晩春』(49)などを特にお気に入りの作品にあげていますが、今回の映画にもその影響があると思いますか?


リー:そうですね。彼は私のDNAに組み込まれた監督です。この映画を作る時は、小津を意識して撮ったわけではありません。でも、彼の映画をほぼ全部見ているので、彼は常に私の中にいると思います。そう、DNAの中に生きていて、私の映画観を作り上げた監督のひとりなんです。この映画のどこが小津的かというと、それは自分でも分かりません。特に意識しているわけではなく、無意識のうちに自分の中にいる監督だからです。


Q:あなたの映画では人間の痛みや苦しみ、愛といったテーマが、人間関係を通じて描かれています。観客が自分の経験や思いを重ねながら、この新作を見ることを望んでいますか?


リー:もちろん、そうであってほしいです。そうでないと、映画を作る意味がない。観客にそう見てもらえることこそが、私が映画を作る意義だと思っています




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監督/脚本:マイク・リー

英国を代表する巨匠のひとりであり、60年におよぶキャリアにおいて、これまで7回、アカデミー賞候補となり、3つの英国アカデミー賞(BAFTA)も獲得。カンヌ、ヴェネチア、ベルリンと3大国際映画祭での受賞歴もある。1943年2月20日、イギリスのランカシャー州、サルフォードのグレーター・マンチェスター出身。名門の王立演劇学校では俳優としての訓練も受けたが、後にセントラル・スクール・オブ・アーツ・アンド・デザイン、ロンドン・スクール・オブ・フィルム・テクニック等で学ぶ。最初は演劇界で活躍し、BBCなどでテレビ映画も手がけていた。劇場映画のデビュー作は71年の『ブリーク・モーメンツ』(日本未公開)。83年には無名時代のゲイリー・オールドマン、ティム・ロスが主演の青春ドラマ『ミーンタイム』(83、日本未公開)を撮り、ベルリン映画祭の読者審査員賞受賞、88年のホームドラマ『ビバ!ロンドン!ハイ・ホープス~キングス・クロスの気楽な人々』(88、日本ではビデオ公開)はヴェネチア映画祭の国際映画批評家協会賞受賞。人間の心の闇を見つめた『ネイキッド』(93)ではカンヌ映画祭の最優秀監督賞受賞。そして、96年の中年のシングルマザーの再出発を描いた『秘密と嘘』は同映画祭のパルムドール賞を受賞。アカデミー賞では、作品賞・監督賞など主要5部門にノミネートされ、英国アカデミー賞の英国映画賞と脚本賞も獲得。実力派監督としての評価を決定づける。それまでホームドラマが多かったが、『トプシー・ターヴィー』(99、日本未公開)では、19世紀のオペレッタの創作コンビ、ギルバート&サリヴァンの活動に焦点を当て、歴史に踏み込んだ作品も手がけた。この作品はアカデミー賞の脚本賞候補となる。戦後の女性の知られざる歴史を見つめた『ヴェラ・ドレイク』(04)はヴェネチア映画祭金獅子賞と英国アカデミー賞の監督賞受賞。アカデミー賞の監督賞・脚本賞候補にもなっている。現代女性の日常を見つめた『ハッピー・ゴー・ラッキー』(08、DVD公開)、ある家族と周囲の人々との交流を描いた『家族の庭』(10)も、それぞれアカデミー脚本賞候補となる。また、英国を代表する風景画家、ターナーの人生を見つめた『ターナー、光に愛を求めて』(14)ではカンヌ映画祭で好評を博した。『ピータールー マンチェスターの悲劇』(18)では19世紀の悪名高い虐殺事件を描き、ヴェネチア映画祭のヒューマン・ライツ・フィルム・ネットワーク賞受賞。6年ぶりの新作『ハード・トゥルース』では英国アカデミー賞の英国映画賞候補となる。英国アカデミー賞では95年にマイケル・バルコン賞、15年にはフェローシップ(生涯功労賞)も受賞している。



取材・文:大森さわこ

映画評論家、ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」、「スクリーン」等に寄稿。東京のミニシアターの歴史を追ったノンフィクション「ミニシアター再訪(リヴィジテッド) 都市と映画の物語 1981-2023」(アルテス・パブリッシング)で日本映画ペンクラブ賞を受賞。ウェブの「スクリーン・オンライン」で「英国 映画人File」を連載中。




『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』

新宿シネマカリテほか全国順次公開中

配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

© Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U.

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