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『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』マイク・リー監督 巨匠が見つめる黒人女性の心の真実【Director’s Interview Vol.527】

© Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U.

『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』マイク・リー監督 巨匠が見つめる黒人女性の心の真実【Director’s Interview Vol.527】

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90年代にカンヌ映画祭でパルムドールを獲得した家族劇『秘密と嘘』(96)で大きな話題を呼んだ英国の巨匠、マイク・リー監督。彼のこの作品は日本のミニシアターでも大ヒットを記録した。他にも、カルト的な人気を誇る『ネイキッド』(93)、家族と四季を描いた『家族の庭』(10)、女たちの秘められた歴史に迫った『ヴェラ・ドレイク』(04)、英国を代表する画家、ターナーの晩年の人生と愛を見つめた『ターナー、光に愛を求めて』(14)とコンスタントに力のある作品を発表してきた。


そんな彼が6年ぶりに手がけた新作が『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』。舞台は現代のロンドン。常に怒りを抱えた中年の黒人女性、パンジーの日常生活を見つめながら閉塞感のある時代に生きる意味を問いかける。その力強い演出は、海外では高い評価を得ていて、英国アカデミー賞では英国映画賞の候補となる。また、圧巻の演技を見せる主演のマリアンヌ・ジャン=バプティストはニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンなどの批評家協会賞の主演女優賞も獲得。『秘密と嘘』でアカデミー助演女優賞候補にもなった彼女は、監督と約30年ぶりのコンビ復活となった。


いまも精力的な活動を続けるリー監督に、ズームでのインタビューが実現。この作品の意図を語ってくれた。ひと筋縄ではいかない性格ゆえ、時には変化球の答えも返ってくる取材となった。



『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』あらすじ

パンジーは、夫や息子と暮らす中年女性。いつも何かに苛立ち、身近な人々との衝突を繰り返している。配管工の夫や20代の無職の息子との関係もぎくしゃくする日々。しかし、対照的な性格の妹、シャンテルと母の日に亡き母の墓参りに行った時から、自分の秘められた気持ちと向き合う。その心の奥には、長年、家族に複雑な思いを抱えてきたパンジーの深い孤独や悲しみが浮かび上がってくる……。


Index


主人公の人物像と主演女優



Q:『ハード・トゥルース』の中年女性、パンジーは強烈なキャラクターですが、どういうプロセスを経て彼女の人物像は完成しましたか? あなたが過去に描いた『秘密と嘘』のシンシアや『家族の庭』のメアリーのように悩みをかかえた女性像にも通じますね。


リー:その質問には答えが見つかりませんね。それというのも、こうした人物像や女性像、さらに男性像は普段の生活から、つまり、人生を生きることから出てきているのです。よって、パンジーも特定のアイデアを具体化するために生まれたキャラクターではないのです。私は俳優たちと協力することでこうした人物像を作り上げてきました。怒りを抱えたパンジーは、女性だからこそ描ける人物像ではなく、こういう性格の人物は男性にもいると思います。孤立し、不満を抱えた人物像は特殊なものではない。そういう考え方から、まずはスタートしました。


Q:俳優たちと即興を通じて人物像を作り上げるようですが、即興を重ねた後、脚本(スクリーンプレイ)を書き上げるのですか?


リー:私はいわゆる脚本は決して書きません。脚本は、実際にどんなことが起きて、どんなセリフを語るのか書き込まれていますが、私はそういうものは作りません。ただ、全体の流れが分るストラクチャー(設定図)だけを書くことにしています。



『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』© Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U.


Q:パンジー役で素晴らしい演技を見せているマリアンヌ・ジャン=バプティストとは、『秘密と嘘』以来、約30年ぶりのコラボでしたが、彼女との仕事はいかがでしたか?


リー:かつて『秘密と嘘』で組んだ時、彼女はまだ若い新人の女優で、私生活でもシングルでした。でも、今の彼女は中年の既婚者となり、ふたりの娘がいます。私の方は、あの頃は中年でしたが、今は80代の監督となってしまいました。もう、老人ですね。だから、それだけの人生経験をふたりとも重ねたわけです。つまり、表現者としてお互いに成長し、人生の複雑な部分ももっと考えることができるようになっていると思います。


Q:『秘密と嘘』の前作『ネイキッド』でも、彼女の起用を考えたそうですね。デヴィッド・シューリス演じる主人公が道で出会う人物のひとりを演じるというアイデアだったそうですが。


リー:そうですね、確かにあの時、彼女を起用できそうなアイデアもありました。でも結局、必要のないエピソードだと思ってやめました。



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