“語り部”が存在しなくなってきている
Q:人はなぜ「ストーリー」を求めると思いますか? という質問を用意していたのですが、ここまでの話を伺うと、人はもうストーリーを求めないかもしれませんね。
小島:そこがちょっと心配ですよね。先ほどのセッションでジョージ・ミラーさんも言っていましたが、太古の昔から人間はストーリーを聞かせることで色々な知識や感情を得てきた。それを人に伝えることが、まさに“ストーリーテリング”で、そこにいろんな個性が出てくる。その名残が読み聞かせや落語です。今は事象だけの短い映像が出回っていて、そこには語り部が存在しない。例えば、普通は「パレスチナでこんなことがありました」とストーリーテリングする人がいるわけですが、今はその介在者がいなくなって、断片だけが直接飛んで来る。空爆で人が死んでいる映像だけが送られてきてしまう。でも大事なのは、「こういう国がこういう場所でこんな戦争をしています」と語ることなんです。今後はもしかしたらその部分をAIが補完するかもしれません。ちゃんと人間が補完できれば良いんですけどね。
ストーリーテリングを見聞きすることがまず大事ですが、自分自身がストーリーテリングできるかどうかも重要。そういう文化が無くなってしまうと、人間は果たしてどうなるのでしょうか...。

Q:「ストーリーテリング」について、影響を受けた人や作品があれば教えてください。
小島:映画で言えばジョージ・ミラーさん、小説だと安部公房などが好きですが、他にもたくさんいます。やっぱり10代のときの記憶が優先されるので、その頃に出会った映画監督や作家が未だに残っています。今でも好きな監督や作家には出会いますが、10代のときほど自分の感覚が優れていませんから(笑)。自分の人生を変えたものは15〜16歳のときに出会ったもの。自分が真っ白なときに出会えたものは大切ですね。
小島秀夫
1963年、東京都生まれ。ゲームクリエイター。1987年に初監督作品『メタルギア』でデビュー。シリーズ化された同作で、ステルスゲームというジャンルを確立。2015年末に独立しコジマプロダクション設立、2019年にはスタジオ初のタイトル『DEATH STRANDING』をPlayStation®4およびPC向けに発売。後にPlayStation®5、PC、iPhone、iPad、Mac向けに拡張版『DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT』(2021年)をリリース、2025年3月時点で全世界・全プラットフォームにおいてユーザー数2,000万人を突破。2025年6月には続編タイトル『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』を発売。「2020 BAFTA Games Awards」でBAFTA最高の栄誉であるフェローシップ賞を、2022年に文化庁より「芸術選奨文部科学大臣賞(メディア芸術部門)」を受賞。さらに、映画制作・配給 会社「A24」との実写映画化プロジェクト、Xbox Game Studiosと贈る『OD』や、完全新規のアクション・エスピオナージ・ゲーム『PHYSINT(仮題)』など、様々なプロジェクトが進行中。
公式ウェブサイト: www.kojimaproductions.jp
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
THU 公式サイト:https://www.trojan-unicorn.com/ja/bootcamp/thu-storytelling-2025
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