リトリート*イベント「THUストーリーテリング」が、2025年9月17日~20日の4日間にわたって石川県加賀市にて開催された。「物語性」や「物語を伝える」ことを軸に、国境を超えた学びと体験を提供するこのイベントに、44カ国から集まった約300人が参加。SENSEI(講師)には、映画監督やゲームクリエイター、アニメーター、イラストレーターなど、世界中からトップクリエイターが集結。参加者たちは憧れのクリエイターから創作の秘訣を伝授された。
*リトリートとは:住み慣れた土地を数日間離れて、仕事や人間関係で疲れた心や体を癒す過ごし方のこと。観光が目的の旅行とは違い、日常を忘れてリフレッシュすることを目的とする。欧米で流行している新しい旅や合宿のスタイル。
THU Storytelling 2025 | Kaga City, Japan
CINEMORE編集部は、一昨年に行われた「THU JAPAN 2023」に続き現地でリトリートを体験。開催期間中は、数多くいるSENSEIの中から、ゲームクリエイターの小島秀夫氏、映画監督のジョージ・ミラー氏、ティム・ミラー氏、アートディレクターのサイモン・リー氏、そして、THU創設者のアンドレ・ルイス氏とアンバサダーの塩田周三氏に、それぞれ単独インタビューを実施。連載形式でお届けする。記念すべき第一弾は小島秀夫氏! ジョージ・ミラー監督との熱気に包まれたトークセッション「Why We Tell A Story」を終えたばかりの小島氏に話を伺った。
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ストーリーテリングとは?
Q:今回のテーマは「ストーリーテリング」ですが、最初に聞いた印象はいかがでしたか。
小島:意外でしたね。僕は映画や小説が好きなのでストーリーテリングを重視していますが、今の若者たちはTikTokやYouTubeなどで部分的に切り取ったものを楽しんでいる。そんな時代にあえて「ストーリーテリング」ということで驚きました。
今のゲームってストーリーがない。格闘ゲームやレースゲーム、FPSシューターにしても、結局は誰が強いか早いか。もちろんゲームとしては良いのですが、僕はそうじゃない。例えばカーレースだったら、車から降りたレーサーは家に帰ったらどんな生活をしているのか、そのレーサーのストーリーを知りたい。でもゲームってインタラクティブなので、そこを作るのが苦手なんです。だけど僕はそこがやりたい。
今ここにコーヒーが置いてありますが、このコーヒーひとつにもストーリーはある。そうやって考えると世界の見え方が変わってくるんです。物語化することにより、記憶の奥底に入り込める。そういう発想が大切だと思います。
Q:「ストーリーテリング」の「telling(語る)」という役割については、どのように捉えていますか。
小島:自分が観た映画や読んだ本を人に語るとき、そこに「telling」が入ってくる。物語の構造をどう捉えて紹介するかで、その物語の印象が違ってきます。物語そのものではなく、それをいかに演出するか、どこに言及してどこを言わないのか、その手法が重要。これは起承転結などの物語の構造ではなく、語り部に起因してくるもの。落語家と一緒ですよね。同じ事象でも話し方や演出で印象が違ってくる。そこの旨味を握った人が強いし、その語り方は時代によっても変わります。
Q:ゲームにおける「ストーリーテリング」とは、どんなものになるのでしょうか。
小島:映画はタイムラインが操作できてフレーム内だけで情報が完結しますが、ゲームはそれよりも圧倒的に情報量が多い。そこでストーリーに没入させることはかなり困難。例えば、僕は昔「オウム返し手法」と言っていましたが、ゲームの中でプレイヤーが初めて聞く単語を記憶に残すためには、何度もオウム返しさせるしかない。映画はそのまま先に話が進みますが、ゲームはいろんな情報が入ってくるので、こういったオウム返しみたいなものが必要になってくる。そこが映画とは全然違いますね。ゲームで「ストーリーテリング」をやるのは猛烈に難しくて、これまでに成功例もあまりなく、まだまだ成し得てないものなんです。