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生と死、手作業をリスペクトしたギレルモ・デル・トロの『フランケンシュタイン』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.70】

生と死、手作業をリスペクトしたギレルモ・デル・トロの『フランケンシュタイン』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.70】

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怪物に負けない脇役たちの怪演





 怪物役ジェイコブ・エロルディと、怪物を生み出す外科医ヴィクター・フランケンシュタイン役のオスカー・アイザックだけでも強烈な印象を残すが、そのほかの配役も多彩である。怪物とヴィクターの双方を惹きつけるエリザベス役のミア・ゴスは、ある意味怪物よりも目立つ独特の衣装に身を包んでいるが、彼女が愛する昆虫を彷彿とさせるドレスは本作のアイコンのひとつでもあるだろう。ゴスはヴィクターの母親役でもあるが、一見それとわからないようなメイクが施され、顔もはっきりと映らないよう工夫がされている。弟ウィリアムの出産と引き換えに彼女が命を落とすことが、ヴィクターに死を克服し生命を自在に操ってみせるという野望を抱かせるきっかけとなる。


 またヴィクターの父役チャールズ・ダンスはいつもながら威圧的なキャラクターで若きヴィクターを「教育」する。この父親との関係がのちにヴィクター自身と怪物との関係に大きく影響を及ぼす。エリザベスの叔父ハーランダー役のクリストフ・ヴァルツはもちろん怪演という言葉がよく似合う。ここでは生命創造に取り組むヴィクターに研究資金を提供する強力なスポンサーとして登場するが、機知に富んだ紳士然とした様子とは裏腹に、実は梅毒に侵されており残された時間は少なかった。ハーランダーは原作には登場しない本作オリジナルのキャラクターだが、彼がヴィクターの研究に目をつけた本当の狙いが判明すると、物語は大きく動き出す。


 森に逃げ出した怪物が、小さな家で暮らす家族の様子を覗き見ることで、人間への知識を身につけるくだりは原作でも大きな箇所だ。怪物は一家の中でも盲目の老人に注目し、自分の恐ろしい姿を見ることなく接してくれるであろう老人に接近することで、初めて人間の優しさに触れる。この老人役のデイビッド・ブラッドリーは、『ハリー・ポッター』シリーズではホグワーツ城の管理人アーガス・フィルチ役でお馴染みである。


 デル・トロ作品の常連バーン・ゴーマンもしっかり顔を見せる。当初ヴィクターは生命創造の材料として死刑囚の死体を利用しようと考えていたが、死刑にならずとも一年以内で死ぬであろう病にかかった囚人がいるなど、すでに健康状態が悪くて材料として芳しくなかった。このとき死刑執行人としてヴィクターに便宜を図っているのがゴーマンだ。彼を最初に知ったのは『ダークナイト・ライジング』(12)の悪役の右腕役だったと思うが、淡白かつ冷たさのある感じがいい。前回取り上げた『ビートルジュース ビートルジュース』(24)にも登場していたが触れそびれた。ヴァルツ同様、本当に役柄がブレないタイプのひとだ。


 そして今回ぼくが最も気に入っているのが、冒頭から北極の氷の中で立ち往生を余儀なくされる探検船、ホリソント号のアンデルセン船長役、ラース・ミケルセンである。ご存じマッツ・ミケルセンの実兄で、映画はデンマーク作品での活躍が主だが、『スター・ウォーズ』のドラマシリーズ『アソーカ』(23)でのスローン大提督役が記憶に新しい(元々アニメシリーズでスローンの声を担当していたことに引き続いての配役である)。『SHERLOCK(シャーロック)』シーズン3(14)でのメディア王チャールズ・アウグストゥス・マグヌセン役なども恐ろしい印象を残している。欧米作品での北欧俳優の例に漏れず悪役の印象もあるが、本作で演じたのは負傷したヴィクターを助け、彼の語る奇怪な話に耳を傾けるだけでなく、現れた怪物の話さえ黙って聞くほどの冷静で理知的な人物だ。一方で船員たちに危害を加える怪物に対して躊躇なく銃撃を命じるなど、大胆かつ素早い判断力も持つなど、なかなかかっこいい役柄でもある(冒頭の船員たちと怪物との戦いは原作にはないが、いい脚色だ)。ヴィクターや怪物と遭遇する前は、氷に阻まれながらも北極への探検を頑なに諦めない頑固さを見せるが、その頑なさは冷静さと表裏一体なのかもしれない。船員たちの不満は反乱という形で爆発寸前でもあったが、ギリギリのところで押しとどめて統率を取る迫力と気概も備えていた。


 最終的にヴィクターと怪物の物語の聞き役に徹し、またその結末を見届けるアンデルセン船長だが、いわゆる傍観の役割にはおさまらないキャラクターとして印象に残った。彼が見届けた物語は意外な結末を見て、彼自身も物語の手を借りて北極の氷を脱することになる。




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