1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『センチメンタル・バリュー』ヨアキム・トリアー監督 信頼し合える俳優たちとのコラボレーション【Director’s Interview Vol.538】
『センチメンタル・バリュー』ヨアキム・トリアー監督 信頼し合える俳優たちとのコラボレーション【Director’s Interview Vol.538】

© 2025 MER FILM / EYE EYE PICTURES / LUMEN / MK PRODUCTIONS / ZENTROPA ENTERTAINMENTS5 APS / ZENTROPA SWEDEN AB / KOMPLIZEN FILM / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ARTE FRANCE CINÉMA / FILM I VÄST / OSLO FILM FUND / MEDIEFONDET ZEFYR / ZDF / ARTE

『センチメンタル・バリュー』ヨアキム・トリアー監督 信頼し合える俳優たちとのコラボレーション【Director’s Interview Vol.538】

PAGES


小津安二郎から学んだ空間演出



Q:本作は言葉で語られない感情というのがたくさんあり、観客に余白を想像させるところに、ある意味日本映画などにも通じる美学を感じました。共同脚本家のエスキル・フォクトとはどのように執筆されたのでしょうか。


トリアー:「わたしは小津安二郎の大ファンなんです。もちろん、小津映画は誰にも真似できませんが、彼の作品からインスパイアされるものはとても大きい。たとえばあの低いカメラ・アングル。あれは日本家屋という空間だからこそ、功を奏するのではないかと思います。


エスキルは彼自身、監督でもあり、監督と一緒に脚本を書くというのは大きな利点でもあります。我々はストーリーやセリフを書くだけではない。その空間における“真実の動き”を見つけることが大事なのです。たとえばキッチンの場面で、登場人物が動いたり座ったりというのは、わたしと俳優が一緒になって構築します。しかしそのためにはまず、その空間における時間の流れを把握することが必要です。空間における時間の流れというのは、映画を書く上での重要なエッセンスと言えるでしょう?エスキルはそれがもっとも得意なんです。


Q:家族がずっと住んでいた一軒家の存在もとても重要ですね。歴史と記憶が詰まった、ひとつのキャラクターとも言える象徴的な存在です。あの家についてのこだわりを教えてください。


トリアー:たしかに家はとても重要な存在で、あの一軒家を見つけられたことはラッキーでした。現代的な建物ではなく、歴史を感じさせる作り。あの家は家族の誰よりも、長いことそこに住む者を見守ってきたのです。ひび割れがその象徴です。メタファーという言葉はあまり好きではありませんが、ひび割れは時の流れを表し、家族に亀裂が入ることのメタファーでもあります。ノーラが語っているように、家がほとんど崩れ落ちてしまうのではないかと思わせます。わたしは田舎に住んでいるので、夏は暑く冬はとても寒く、その温度差のために壁にひび割れが入ることは珍しくありません。実際ひび割れが小さい頃からわたしのトラウマになっています(笑)。ですからこの物語全体を示唆する意味でも大切だと思ったのです。



『センチメンタル・バリュー』© 2025 MER FILM / EYE EYE PICTURES / LUMEN / MK PRODUCTIONS / ZENTROPA ENTERTAINMENTS5 APS / ZENTROPA SWEDEN AB / KOMPLIZEN FILM / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ARTE FRANCE CINÉMA / FILM I VÄST / OSLO FILM FUND / MEDIEFONDET ZEFYR / ZDF / ARTE


Q:映画はある意味、個人的なセラピーになると思いますか。


トリアー:どうでしょうね。わたしはそういった明確な理由で映画を作ってはいません。ただ、他の仕事をするのは想像がつかないだけです(笑)。それに映画というフォームに個人的に情熱を感じます。わたしは映画が好きで、映画をたくさん観て育ち、つねに映画のことを考えている。普段も人々を見ながら、その態度や精神性、ミステリーに惹きつけられます。そしてキャラクターを描くときは、わたし自身ではないけれど、でもどこかに共通性がある人物になる。ただしそこには十分な客観性があると思います。


Q:本作は2025年のカンヌ国際映画祭で披露され、グランプリに輝いて以来、各国の賞レースを席巻し、アカデミー賞では8部門、9ノミネートを受けました。この熱狂の中でいま、どんなことを感じていらっしゃいますか。


トリアー:(他にノミネートされている)素晴らしい監督たちの仲間入りを果たすことは大きな栄誉です。多くの人に自分の映画が注目され、リスペクトされる。わたしにとってそれはとても意義深い。もうひとつ面白いのは、多くの人が観て語り始めることによって、作っているときには意識していなかったものに気付かされることです。人々はそのようにわたしの映画を観るのか、と。映画がまさにひとり立ちして旅を始める。それはとても興味深いです。




『センチメンタル・バリュー』を今すぐ予約する↓







監督/脚本:ヨアキム・トリアー

デンマーク生まれ、ノルウェー出身。長編デビュー作『リプライズ』(06)で2007年アマンダ賞(ノルウェー・アカデミー賞)の最優秀ノルウェー作品、監督賞、脚本賞を受賞。2006年のアカデミー賞外国語映画賞ノルウェー代表作品に選出。続く『オスロ、8月31日』(11)は2011年カンヌ国際映画祭のある視点部門にて正式出品し、2013年セザール賞の最優秀外国語映画賞にノミネート。初の英語作品となる『母の残像』(15)ではカンヌ国際映画祭コンペティション部門に初選出された。その後『テルマ』(17)でも世界的な映画賞を複数受賞するほか、北欧理事会映画賞にノミネートするなど注目を浴びた。そして『リプライズ』『オスロ、8月31日』と並び「オスロ三部作」として名を連ねる『わたしは最悪。』(21)ではレナーテ・レインスヴェが第74回カンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞、英国アカデミー賞(BAFTA)にノミネートの後、第94回アカデミー賞では脚本賞、国際長編映画賞にノミネートを果たした。今作『センチメンタル・バリュー』を含む6本の長編映画を脚本家エスキル・フォクトとのコラボレーションで作り上げ、いずれも国際的に高い評価を受けている。



取材・文:佐藤久理子

パリ在住、ジャーナリスト、批評家。国際映画祭のリポート、映画人のインタビューをメディアに執筆。著書に『映画で歩くパリ』。フランス映画祭の作品選定アドバイザーを務める。





『センチメンタル・バリュー』

2月20日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中

配給:NOROSHI ギャガ

© 2025 MER FILM / EYE EYE PICTURES / LUMEN / MK PRODUCTIONS / ZENTROPA ENTERTAINMENTS5 APS / ZENTROPA SWEDEN AB / KOMPLIZEN FILM / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ARTE FRANCE CINÉMA / FILM I VÄST / OSLO FILM FUND / MEDIEFONDET ZEFYR / ZDF / ARTE

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『センチメンタル・バリュー』ヨアキム・トリアー監督 信頼し合える俳優たちとのコラボレーション【Director’s Interview Vol.538】