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『ドランクヌードル』ルシオ・カストロ監督 虚構=フィクションの力を信じてみる【Director’s Interview Vol.545】

© 2025 Lucio Castro Inc.

『ドランクヌードル』ルシオ・カストロ監督 虚構=フィクションの力を信じてみる【Director’s Interview Vol.545】

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ある青年が過ごした、いくつかの夏の記憶。大勢の人々が行き交うニューヨークの街で。陽の光に満ちた新緑の森で。都会と自然との間を行き来しながら、青年はさまざまな男たちと出会い、幻想的な世界へと導かれていく。

 

夏を舞台にした4つの物語から成る『ドランクヌードル』は、ゲイの青年によるセックスをめぐる冒険譚だ。匿名で出会った相手と夜の公園で交わり、複数の男たちと乱交し、ときには何十歳も年上の相手と関係を持ったり、セックスレスの恋人と奇妙な体験をしたりもする。その体験はどれも官能的でありながら、驚くほど軽やかで、不思議なユーモアに満ちている。


クィアな感覚に満ちたこの現代の寓話を監督したのは、アルゼンチン出身で、ニューヨークを拠点に活躍するルシオ・カストロ。長編3作目となる本作は、映画にも登場する実在の刺繍アーティスト、サル・サランドラの刺繍作品からインスピレーションを受け、生み出されたという。ファッションデザイナーとしての経歴も持ち、今大きな注目を集めるルシオ・カストロ監督に、このユニークな映画がどのように誕生したのか、お話をうかがった。



『ドランクヌードル』あらすじ

夏の間、ニューヨークにある叔父の家に滞在することになった美大生のアドナンは、ある夜、デリバリー配達員のヤリエルと出会う。翌日、アドナンがインターンをしているギャラリーにやってきたヤリエルは、サル・サランドラという70代後半の刺繍アーティストの作品に目を留める。実はアドナンは、去年の夏、サルと出会い、不思議な体験をしていた。そうして彼が過ごした2つの夏と、男たちとの思い出が語られていく。


Index


虚構=フィクションの力を信じてみる



Q:まずは『ドランクヌードル』という映画がどのように生まれてきたのか教えてください。監督は最初、刺繍アーティストのサル・サランドラさんのドキュメンタリーを作ろうとしていたそうですね。それがフィクションという形になるまでに、どういった経緯があったのでしょうか。


カストロ:実は今でも時々、「僕の作ったドキュメンタリー映画が……」とつい言ってしまっては、友達から「ドキュメンタリーじゃないでしょ?」と訂正されています(笑)。実際にこの映画をドキュメンタリーだと思っているわけではないのですが、自分でもちょっと混乱するときがあるんです。


最初は、サルのことを知って興味を持ち、カメラと録音機材を持って彼の家を訪ねたのが始まりでした。ぜひ彼のドキュメンタリーを作りたいと思ったのですが、実際にカメラを向けて彼に質問をしているうち、段々と居心地の悪さが芽生えてきました。どうも自分が普段より気取ったふうに振る舞っている気がしたし、サルもアーティストとして何かかっこいい答えをしなければ、と意識しているように感じました。たぶん二人とも、カメラの前で自分ではない誰かを演じていたのでしょうね。これは何か違うなと感じ、ドキュメンタリーという形は一旦諦めようと決めました。



『ドランクヌードル』© 2025 Lucio Castro Inc.


そしてこの出会いをどういう形で映画にできるだろうと数年かけて考えるうち、完全なるフィクションでこの物語を描こうと決めました。もちろんフィクションで描かれることはすべて虚構です。でも虚構の中にもたしかに真実はあるし、むしろそれによってより本当のことが伝わりやすくなることがある。「これは全部本当に起こったことです、信じてください」と差し出せば疑念を抱いてしまう人も、フィクションという形をとることで、その中にある真実を受け入れられるかもしれない。フィクションには、そういう不思議な力があるんです。


Q:この映画では、アドナンという青年が体験するさまざまな出来事が描かれますが、登場するキャラクターやエピソードは、サル・サランドラさんとの実際の会話から生まれてきたものなのでしょうか。それとも監督の想像力の中から生まれてきた部分が大きいのでしょうか。


カストロ:物語やキャラクターのすべては、私自身の人生経験から生まれてきたものです。サルにインタビューをしたとき、彼は自分が敬虔なキリスト教徒の家庭で育ったと明かし、長年自分がゲイであることに対して感じていた罪悪感や、教会との複雑な関係についても色々話をしてくれました。


彼の話はとても興味深かったのですが、こうした「ゲイであることの罪悪感」みたいなものは、映画の題材として過去に数えきれないほど扱われてきたし、自分の映画でそれをまた描きたいとは思いませんでした。そこで、彼のこれまでの人生をもとに物語を作るのではなく、サル・サランドラというキャラクターとその作品を、そのまま映画に登場させることにしました。映画の中でサルを演じたのは別の俳優ですが、章ごとに挿入されるタイトルロールで映される刺繍を縫う男性の手は、実際のサル・サランドラの手です。





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