映画や映像がもつ役割とは
Q:いじめや虐待などハードなシーンが続き、章子役の山﨑七海さんはかなり大変だったかと思います。心情的にもあのキャラクターに入り込むことは、なかなか難しかったのではないでしょうか。
瀬々:山﨑さんは『渇水』(22)という映画で既に知っていたのですが、飼い慣らされていない、どこか捨て犬のような要素を身にまとっている存在感を感じました。オーディションの時から、そういうものを持っている人だという感じがすごくしたんです。そんなこともあってか、山﨑さんに関しては、この役を無理してやっているような感じはなかったように見えました。
一方で、章子の友人・亜里沙役の野澤しおりさんは相当難しかったと思います。亜里沙はある種の強さが必要となってくる役。父親役のカトウシンスケさんを殴ったり蹴ったりするシーンがあるのですが、野澤さん自身は普通の中学生なので、そういう怒りに触れたこともないでしょうから、その感覚は経験していないと思うんです。かなり無理をして激しくやってもらった部分はありました。でも彼女の中で、徐々にそこの気持ちが強くなっていったようで、最後の方のシーンでは、彼女自身が強い意志を発揮していました。この映画の中で、野澤さんはどんどん役になっていった感じがありました。

『未来』Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社
Q:坂東龍汰さん演じる映画青年の原田勇輝は、この映画の中では数少ない“救い”として機能しますが、何か込めたものはありましたか。
瀬々:僕らも最初は自主制作映画を8mmなどで撮影し始めて、それがだんだん仕事になっていった。映画を作る楽しみには物語を作ることもありますが、映画を作ることで世界に触れる部分も多分にある。映画を作るから知り合いも増えるし、いろんなことも分かっていく。まぁそれで、一瞬だけ世の中の秘密を知ったような気にもなるんですけど(笑)。そういうことを入れてみたかった。
僕がこの映画の中で一番好きなのは、真唯子が言う「映画は、関係ないから」というセリフ。そう言われても原田はやり続ける。あれがいいなと思ったんです。映画を仕事にしていたら同じようなことは往々にしてあるわけで、「辛いからやめようか」なんてことはよくある。原田はその後も映画作りを何とか続けて、エンターテインメントの仕事で誰かを助けてあげたいと思うようになっていきます。その意味でも映画や映像というものの役割を、どこかに散りばめていきたいとは思っていました。
ちなみに、劇中ではスマホで動画を撮っているシーンが多いのですが、あれは原作にはなかった要素です。「文章を書く」ということが世界に触れる手段になっているところに原作の良さがあって、手紙を書くことで少女がいろんな世界に触れていく。それが湊さんの小説ならではのテーマでしたが、映画の場合、それをそのまま表現するのはなかなか難しい。そこで、手紙の代わりにスマホで映像を撮ることで世界に触れ、少女がコミュニケーションを取れるようにできないかと。その要素のおかげで、映画としての見やすさに繋がったと思いますし、彼女たちの成長の一面を描くことができたかと思います。
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監督:瀬々敬久
1960年生まれ、大分県出身。京都大学在学中から自主映画を制作。助監督を経て、『課外授業 暴行』(89)で監督デビュー。10年、自主制作した『ヘヴンズ ストーリー』が第61回ベルリン映画祭国際批評家連盟賞とNETPAC(最優秀アジア映画)賞を受賞。以降数々の話題作、ヒット作を手掛ける。主な作品に、『64-ロクヨン- 前編/後編』(16)、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)、『友罪』(18)、『楽園』(19)、『糸』(20)、『護られなかった者たちへ』(21)、『とんび』(22)、『ラーゲリより愛を込めて』(22) 、『春に散る』(23)、『少年と犬』(25)など。公開待機作に『SUKIYAKI 上を向いて歩こう』(26年12月25日公開)、『存在のすべてを』(27年2月5日公開)がある。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『未来』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
配給:東京テアトル
Ⓒ2026 映画「未来」製作委員会 Ⓒ湊かなえ/双葉社