雄太と誠で作った“空気”
Q:雄太と誠との会話がナチュラルやリアリティを超えて、観ている我々の記憶の一部のような感覚すらありました。会話シーンはどのように作られたのでしょうか。脚本通りだったのでしょうか。
坂西:2人の会話には、セリフとして用意したものがありますが、最低限しか書いていません。イッセーさんが、あるシーンでは「普通で終わらせたくない」と言ってくれたり、常に何かユーモアを取り入れようとしていました。会話の途中から、完全にイッセーさんの世界に入っていくことがあったのですが、それを佑さんが雄太として受け止めながら、あの空気感を作り上げてくれた。この、空気を現場で作っていく流れは、義父と義理の息子が互いを尊重し合う感覚に何だか似ていました。これはもう、それをただ観察しているだけでも面白いんじゃないかと。
柄本:監督がおっしゃった通り、イッセーさんはシーンごとに深く掘り下げて、ユーモアを都度持って来てくれました。僕自身は雄太として割とのんきにそこにいるだけですが、イッセーさんが色々ともたらしてくれるものに雄太も反応していく。とても楽しい時間でした。
イッセーさんは本当にシャイな方で、お芝居の時はある種のデフォルメもされると思うのですが、その雰囲気と誠さんのシャイさがすごくマッチしていて、とてもチャーミングでした。雄太として誠さんと付き合っていく上でも、イッセーさんの姿勢にはすごく助けられました。

『メモリィズ』©2026LittleMore
Q:2人の掛け合いでは笑ってしまうシーンが多かったのですが、写真館で誠が雄太を撮るシーンはグッときました。あのシーンはどう撮影されたのでしょうか。
柄本:あそこって、脚本から変わったんでしたっけ。
坂西:ちょっと段取りが上手くいかなかったのかな。
柄本:確か撮影が止まって、「じゃあどういうシーンにしようか」となったよね。
坂西:イッセーさんが「普通のシーンにしたくない」と言われたんです。撮り合う行為はカットバックになるので、最初は「何度もシャッターを切る」という動きがなく、真面目に撮ってそれで終わってしまう段取りでした。でもそれだと、「これまでも見たことがあるし、雄太と誠の特別な時間になっていない」と、イッセーさんが僕に言ってくださって…。
そこからまた段取りを組み直したのですが、今度は緊張感が大幅に抜けてしまって、2人の温かみが強まりすぎてしまった感覚がありました。関係性としては合っているのですが、僕の中では少し違和感があって…。それで一旦食事タイムを入れた時に、佑さんが「もうちょっと言いたいこと言っていいんじゃない」「俺も助けるよ」と言ってくださったんです。
柄本:そうだったっけ(笑)?
坂西:そうなんです(笑)。その後、緊張感をしっかり持った「撮る」という行為でありながらも、何度もシャッターを切ることによって、2人だけの時間も生まれることになった。そんな経緯があってあのシーンは生まれました。
Q:画面を支配する16mmフィルムとスマホ動画との相性の良さにも驚きました。リアルな現実と記憶の境が曖昧になってくる感覚に似ている気もしました。スマホの動画は実際に柄本さんが撮影されたカットを使用されているのでしょうか。
柄本:僕が撮っているものもあれば、カメラマンの鎌苅(洋一)さんが撮っているものもありますよね。
坂西:鎌苅さん曰く「僕はカメラマンだから、どうしても映画的に被写体を追いかけるような画角で撮ってしまう」と。どうやっても演出された映像になってしまうのでしょうね。でも佑さんに撮ってもらうと、純粋にカメラが自由でいられる。そこの違いが面白いなと思いながら見ていました。
柄本:なるほど。確かにそれはあるかもしれませんね。上手い下手は別として(笑)、カメラマンとは別の人が撮るのはいいかもしれない。僕は普段通りに撮っていましたから。気になったものに寄ったりとか、人の背中を追っかけてみたりとか。かなり自由に撮っていました(笑)。
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監督/脚本:坂西未郁
1992年、東京都出身。京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)映画学科卒業。大学時代より映画制作を始め、短編映画『すこしのあいだ』『夜のこと』などを制作する。『すこしのあいだ』において、ISCA(INTERNATIONAL STUDENTS CREATIVE Awards)映画祭2013最優秀作品賞を受賞、『夜のこと』において、京都造形芸術大学最優秀学科賞を受賞。大学卒業後、助監督(石井裕也監督『月』『茜色に焼かれる』など)やメイキングカメラマン(土井裕泰監督『花束みたいな恋をした』『片思い世界』など)として映画に携わる。80年代から90年代にかけて、日本の音楽シーンにミュージックビデオという分野を定着させた鬼才、映像ディレクター・映画監督の坂西伊作を父に持つ。自身もAwesome City Club「勿忘」などのミュージックビデオを監督。本作品が待望の長編映画監督デビュー作となる。

柄本佑
東京都出身。『美しい夏キリシマ』(03)で映画主演デビュー。近年の主な出演作に『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18/冨永昌敬監督)、『きみの鳥はうたえる』(18/三宅唱監督)、『火口のふたり』(19/荒井晴彦監督)、『痛くない死に方』(21/高橋伴明監督)、『心の傷を癒すということ-劇場版-』(21)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21/堀江貴大監督)、『真夜中乙女戦争』(22/二宮健監督)、『ハケンアニメ!』(22/吉野耕平監督) 、『シン・仮面ライダー』(23/庵野秀明監督)、大河ドラマ「光る君へ」(24/NHK)、『木挽町のあだ討ち』(26 /源孝志監督)。待機作に『黒牢城』(黒沢清監督)、『このごにおよんで愛など』(広瀬奈々子監督)、『最後の遊戯 LAST DANCE』(村川透監督)がある。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『メモリィズ』
新宿ピカデリーほか全国公開中
配給:リトルモア
©2026LittleMore