「嘘がつけない」という悩み
Q:居心地の悪さなど、共感する部分も多かったのですが、観た人の感想はいかがでしたか。
古舘:どちらかというと、共感してくれる人が多いですね。僕は嘘がつけないこともあって、誰よりも社交が苦手なんです。脳の発達は、「嘘がつけるかどうか」で判断できるらしいです。2歳児の3割が嘘をつけるけど、人の目が見られなかったり、嘘が顔に出る。8歳になると誰もが嘘をつけるようになって、嘘を嘘でカバーできるようになる。そういう基準に照らし合わせると、嘘がつけない僕は2歳児のままで脳みそが止まっているのではないか(笑)。嘘がつけなくてああいう場面が苦手だからこそ、面白さを見出して本作を作っていきました。「(この映画の)面白さがわからない」という人にはまだ出会っていないので、もしそういう方がいれば、とても話してみたいです。
Q:プロデューサーは、その特性から社交的な方が多い印象がありますが、菅原さんは本作をどう感じたのでしょうか。
菅原:映像制作をしている時の立場と、演劇を観に行く時の立場はかなり違うんですよね…。僕は演劇がすごく好きで、古舘さんの舞台はもちろん、小劇場などにもよく行くんです。鑑賞した後には、招待して下さった俳優さんや演出家の方々と話すことになるのですが、「うーん…」となる舞台を観てしまった時には何を話していいのか分からない。本来は舞台の中心的な話をしなければいけないのですが、少し違う話をしてしまうことはありますね。「あそこの動きはどうしたの…?」とか、核心に触れないような感じで(笑)。

『挨拶』プロデューサー:菅原直太
古舘:それもまた難しいところなのではないかと、僕は思っているんです。核心に触れないようにすると、「え、そこなんだ」という印象を与えちゃうじゃないですか(笑)。以前、僕が演出した舞台を観に来てくれた友人が、「舞台美術が良かったね」と言ってくれたのですが、僕は「舞台美術が良かったということは…」と逆の捉え方をしてしまったんです。そういうこともあって、話をずらすのもリスキーなのではないか。だから最近は、正直に、丁寧に、誠実に、伝えるようにしています。こういう映画を作ったことも含めて、僕がそういう男だと、皆が分かってくれているはず。この映画を担保として、これからは正直に振る舞っていけるのではないかと思っています。
Q:作品が面白くなかった場合、古舘さんならどういう言葉で感想を伝えられますか。
古舘:具体的に聞かれると難しいですね。でも、ここで言うとネタバレになりますね。危なかった(笑)。この映画を観ていただいて、「古舘寛治はそういうことが言えないんだろうな」と、僕の居心地の悪さを分かっていただければと思います。
Q:お話を伺っていると、自身の気持ちに反することは言えない人が多いのだと感じます。とりわけクリエイティブなことに対しては、余計に罪悪感があって言えないのではないかと。
古舘:ある売れっ子の劇作家の方も、この作品を観て同じことを仰っていました。「別のことなら嘘がつけるのに、こういうことに関しては本当に嘘がつけない。常に悩んでいるから、この作品を観てすごくいたたまれなかった」と。僕は全てに関して嘘が苦手なので、そこだけがピンポイントに苦手だということが不思議でした。
Q:自分とは異なる視点の感想もあるので、「面白くないのは、私だけなのかな」と、自分を疑う気持ちもあるような気がします。
古舘:「自分が掴めてなかっただけなのでは…」ということですね。それはすごく良い捉え方ですね。「僕には掴めなかったんだよね」と言えば、良い感じですよね。「自分の価値観が届かなかったんだ」と。これは素晴らしい伝え方ですね。今後はこれでいきましょう(笑)。