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『ハッシュ!』『ぐるりのこと。』<4Kリマスター版> 橋口亮輔監督 元気あふれる人間賛歌、圧倒されるエネルギー【Director’s Interview Vol.576】

『ハッシュ!』『ぐるりのこと。』<4Kリマスター版> 橋口亮輔監督 元気あふれる人間賛歌、圧倒されるエネルギー【Director’s Interview Vol.576】

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社会と個人の関係性を描く



Q:『ぐるりのこと。』では90年代の約10年間が実際の事件を彷彿させる出来事と共に描かれます。それまで描いてきた個人や家族などから、描く対象が社会へと広がっていくわけですが、そこに向かった理由があれば教えてください。法廷画家という設定も絶妙だなと。


橋口:『ハッシュ!』の後、僕は鬱になって1年間苦しみました。鬱のときは全てがモノトーンに見えているような感じで、鬱から抜けると世界に色が戻る感覚があったんです。そのときに見た世界は、9.11テロ後のアフガニスタンの戦争だったり、ホリエモンがフジテレビと揉めてる騒動だったり、福知山線の事故だったりと、何だか世の中が大騒ぎしていた。鬱を抜けてパッと世界を眺めてみたらそんなことになっていたんです。貞子じゃないですが(笑)、井戸を登って光を見ようとしていた自分が、いざ井戸から抜け出して世界を見たらえらいことになっていた。それがまず衝撃でした。そうやって“個人と社会”というコントラストを感じたこともあって、「自分が鬱になってそこで希望を見出した」ということをやれないだろうかと。まずそれが最初でした。人を絶望させるのも人ならば、人に希望を持たせるのも人だと。それを映画にしたいと思ったんです。


当時、内館牧子さん原作/脚本の「週末婚」というテレビドラマをやっていまして、そこでは新しい結婚の形や新しい女性の生き方みたいなことが追求されていました。それがトレンドだったのかもしれませんが、僕が描くのは決してそうではなく、「変わらない2人」を軸にしていきたかった。何があっても離婚しない、変わらない2人。そんな2人を主人公にしつつ、社会の中では人々のメンタリティに影響を与えるような大きな事件が起こっていく。「失われた10年」と言われる日本人のメンタリティに大きく影響を与えたであろう、バブル崩壊や宮崎勤の公判、阪神淡路大震災やオウム(この95年はとんでもない年でしたね)。僕らは皆、必ずそれらに影響を受けていると思います。「頭のおかしいやつがやった事件だから、俺関係ないわ」じゃなくてね。



©2008 『ぐるりのこと。』プロデューサーズ


そうやって影響を受けた私たちの中にも何かが生まれて、それがまた世の中と常にフィードバックし合っている。その社会と個人という関係性みたいなものを「失われた10年」で描けないだろうか。当時それは、まだ誰も手をつけてないし描いてもいなかった。法廷画家という今まで誰も描いてない職種で日本を定点観測しつつ、時には家族も絡めながら描いていく。そこから発想していきました。


実際に法廷画家の取材もしました。凶悪犯罪に立ち会ったら、自分の中の正義感みたいなものから日常に影響を受けてしまうのではないかと思っていたのですが、実際に取材をしてみたら皆さん一切影響受けないと言う。ものすごく冷めた感じで描いているんです。もちろん色んなことを感じるそうですが、そこでいちいち影響を受けてしまってもしょうがないので、一切何も感じずに凶悪犯の絵を描いていくと。僕の方は映画を作らなきゃいけないから、事件に影響を受けて気持ちが展開していくようなことを最初は考えがちだったんですけどね。取材をしたおかげで、この映画のスタイルが出来ていったと思います。




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監督/原作/脚本/編集:橋口亮輔

1962年7月13日生まれ。長崎県出身。1989年、自主映画として制作した8mm映画『夕辺の秘密』が、第12回ぴあフィルムフェスティバルでPFFアワードグランプリを受賞。92年、『二十才の微熱』で劇場公開デビューをはたし、劇場記録を塗り替える大ヒットを記録した。2作目となる『渚のシンドバッド』(95)は第25回ロッテルダム国際映画祭グランプリ、1997年トリノ国際ゲイ&レズビアン映画祭グランプリなど数々の賞に輝き、国内でも第50回毎日映画コンクール脚本賞を受賞。3作目の『ハッシュ!』(01)は第54回カンヌ国際映画祭監督週間部門に出品され、世界69カ国以上の国で公開された。第75回キネマ旬報ベスト・テン 主演女優賞(片岡礼子)はじめ数々の賞を受賞。『ハッシュ!』から7年ぶりの新作となった『ぐるりのこと。』(08)は、何があっても離れない夫婦の十年を描き、「橋口亮輔の新境地」と各界から絶賛を浴び、第33回報知映画賞監督賞、第32回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞(木村多江)、第51回ブルーリボン賞最優秀新人賞(リリー・フランキー)など数多くの賞を受賞した。2013年、62分の中編『ゼンタイ』を発表。『ぐるりのこと。』以来7年ぶりの長編となった『恋人たち』(15)は、第89回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位、第70回毎日映画コンクール日本映画大賞、第58回ブルーリボン賞最優秀監督賞など、2015年の日本映画を代表する名作として映画賞を席巻した。2024年、温泉宿で繰り広げられる三姉妹の壮絶な姉妹喧嘩をユーモラスに描くホームコメディ『お母さんが一緒』を、『恋人たち』から9年ぶりに発表した。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『ハッシュ!4Kリマスター版』/『ぐるりのこと。4Kリマスター版』

7月24日(金)よりシネマート新宿、シネスイッチ銀座、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開

配給:ビターズエンド

©2001 SIGLO ©2008 『ぐるりのこと。』プロデューサーズ

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