©2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
『左利きの少女』ツォウ・シーチン監督 ショーン・ベイカーと培った創作術、故郷・台湾で開花【Director’s Interview Vol.581】
ショーン・ベイカーの映画を追ってきた人なら、ツォウ・シーチン(鄒時擎)の名を目にしたことがあるかもしれない。中国からニューヨークへと渡った不法移民を描く『テイクアウト』(04)をベイカーと共同監督し、『タンジェリン』(15)や『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17)などにプロデューサーとして携わってきた人物だ。
初の単独長編監督作『左利きの少女』でツォウが向き合ったのは、自らの生まれ育った台湾だった。長年ニューヨークを拠点に活動してきた彼女が故郷へ戻り、自らの記憶と、そこで生きる女性たちの現実を映画にする――。構想から完成まで約25年、ツォウにとってきわめて個人的な作品だ。
実在の場所へ入り込み、そこに生きる人々や街の空気を映画へ取り込む。ショーン・ベイカーと培ってきた創作術は、果たしてどのようなかたちを得たのか? 実際の夜市に紛れ込んだ撮影の舞台裏から、脚本と俳優の言葉、台湾社会で生きる女性たちへのまなざしまで、たっぷりと聞いた。
『左利きの少女』あらすじ
台北、夜市・麺屋台。5歳のイージン(ニーナ・イエ)は、借金を背負ったシングル・マザーのシューフェン(ジャネル・ツァイ)とハイティーンの姉イーアン(マー・シーユエン)と共に生活を立て直すべく田舎町から舞い戻る。ある日、昔気質の祖父に利き手である左手を“悪魔の手”とそしられ、罪悪感を抱きはじめたイージン。その悪魔の手は図らずも、家族それぞれがひた隠しにする《罪》をあぶり出していく―。
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なぜiPhone撮影だったのか
Q:『テイクアウト』の4Kレストア版が台湾で上映されています(注:2026年7月下旬の取材時)。『左利きの少女』のあと、原点となった作品が改めて故郷で観られていることをどのように受け止めていますか。
ツォウ:信じられない気持ちです。『テイクアウト』という作品の寿命がこれほど長いとは、私もショーンも想像していませんでした。スタッフは2人だけ、製作費は3,000ドルという小さな映画だったので、本当に驚いていますし、とてもうれしく思っています。『テイクアウト』という映画が、『左利きの少女』を含めたその後の作品すべてにつながり、私たちをここまで連れてきてくれた。心から感謝しています。
Q:『テイクアウト』から続く、あなたとショーンの映画づくりについて伺います。『左利きの少女』は全編ロケ撮影で、台北市の通化街夜市にて、人の流れを止めずに撮影が行われました。賑やかな夜市で撮影をやり遂げるため、どんな作戦をとったのでしょうか。
ツォウ:この映画を本物の夜市で撮影することは、私たちにとって絶対の条件でした。私が関わってきたショーン・ベイカーの映画が、すべて現実のロケーションで撮影をしてきたように、この映画でもリアルな夜市を撮ることが重要だったのです。そのためには夜市の人流を規制することなく、しかもカメラとスタッフの存在がバレないように撮らなければなりません。台湾の人たちは、撮影クルーを発見するとすぐに見物しますから(笑)。
その点でいえば、小さなiPhoneはほとんど人目を引かない、まさに最適な撮影機材でした。それでも初日は、iPhoneの周りに黒いTシャツ姿のスタッフが20人も集まったので、通行人に映画の撮影をしていることがバレてしまったんです(笑)。初日に撮った映像はまるで使い物になりませんでした。
翌日、私はスタッフに「現場にいる必要がない人はオフィスで待機してください」と頼みました。現場に来たのは、俳優たちとスタッフ5~6人だけ。撮影に使った麺屋台は本物で、朝7時から夜7時までの営業が終わったあと、食材もそのまま使わせてもらいました。誰も映画の撮影だとは気づかず、ついには本物のお客さんがやってきて、俳優に麺を注文したんです(笑)。まさに狙い通りで、この撮影方法がうまくいったことをうれしく思いました。

『左利きの少女』©2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
Q:印象に残るショットがたくさんある映画です。ドキュメンタリーのような撮り方を採用しながら、それぞれのシーンの見せ方をどのように設計しましたか。
ツォウ:撮影監督との間で、5日間ほどかけて綿密な打ち合わせをしました。脚本をワンシーンずつ分析し、「こっちは少女の視点、そっちは姉の視点で」などと話し合いながら、カメラの位置まで慎重に設計したんです。少女が夜市にいるシーンは、すべてを彼女の視点から見せたかったので、少女の目線の高さまでカメラの位置を下げました。すると、カメラが群衆よりもかなり低い位置まで下がり、周囲の人々が彼女やカメラを見る様子も映りにくくなるんですよ。
Q:ネオン鮮やかな夜市の風景を撮るために、どんな照明を使いましたか。
ツォウ:実はほとんどを自然光で撮影していて、照明を加えたのは麺屋台くらいです。照明機材だと気づかれないよう、蛍光灯のような細長いライトを何本か取りつけただけなので、もともと夜市にあった照明にしか見えないはず。また、少女が路地を駆け抜ける場面では、人が通ると点灯するセンサー式ライトを設置しました。路地がとても暗いなか、彼女が走る姿をきちんと撮りたかったのです。