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『顔 -かお-』ヨン・サンホ監督 映画の美学は欠乏から生まれる【Director’s Interview Vol.584】

『顔 -かお-』ヨン・サンホ監督 映画の美学は欠乏から生まれる【Director’s Interview Vol.584】

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新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)や「地獄が呼んでいる」(21 Netflix)など数々のヒット作を生み出し、最近ではNetflixシリーズ「ガス人間」26)のエグゼクティブ・プロデューサー兼脚本を担ったことでも話題を集めるヨン・サンホ監督。


自身が原作のグラフィックノベルを自ら実写映画化した最新作『顔 -かお-』は、40年前に失踪した母の死の真相を探る重厚なミステリー作品だ。近年は大作を牽引してきた同監督だが、本作ではあえて外部からの投資を受けず、自社の直接投資によるミニマムな体制での製作を選択。初期作品を彷彿とさせる原点回帰的な内容と構成で、人間の深淵へと鋭く迫っている。


ヨン・サンホ監督はいかにして『顔 -かお-』を作り上げたのか。じっくりと話を伺った。



『顔 -かお-』あらすじ

韓国で最も美しい判子を刻む盲目の篆刻(てんこく)家ヨンギュ。息子ドンファンにとって、父は“奇跡そのもの”だった。だがある日、40年前に失踪した母ヨンヒの白骨遺体が発見される―。しかも、それは“殺人”の可能性を秘めていた。顔さえ知らぬ母の死の真相を探るため、ドンファンは彼女を知る人々の証言を辿っていく。だが、語られるのは、「化け物のように醜い顔をしていた」という異様な言葉ばかり。なぜ母はそこまで貶められたのか。それは真実か、それとも歪められた記憶か。やがて浮かび上がるのは、一人の女の“顔”ではなく、人間の中に潜む偏見と悪意、そして狂気の集団心理。


Index


主体性の喪失



Q:高度経済成長の歪みが描かれますが、資本主義の限界は今まさに指摘されている今日的なテーマです。意図されたものはありましたか。


ヨン:最初に構想したのは、イム・ヨンギュという皮肉な運命を背負った人物です。目が見えないにもかかわらず美に執着する彼を通して、何が描けるかを考えました。彼は主体的な判断ができず、他人の言葉に依存して判断するしかない悲劇的な人物です。そうした人物像を描くうちに、彼自身が韓国近代化の象徴になり得ると気づきました。そこで、韓国の最も熾烈な高度経済成長期である1970年代を背景に、その成長が犠牲にしたものは何だったのかを問いかける形で作品の企画を始めました。


Q:自由で機会平等を謳いつつ、過剰な競争が優先される。その裏では正しいことが黙殺されてしまう。これは現代の日本社会にも通じる深刻な問題です。現代の韓国ではどうなのでしょうか。


ヨン:韓国でも相変わらず多くの問題が起きていますが、その原因は人々の「主体性の喪失」にあると考えています。この喪失は、多くの人の中に属して安心したいという心理から来るものです。たとえ一人であっても自分が信じることを語る勇気、そしてそれを思いやれる社会の雰囲気が醸成されてこそ、主体性の喪失に起因する様々な問題を解決できるのだと思います。



『顔 -かお-』ⓒ 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.


Q:これまでの寓話では、美への執着がなく本質を捉える人物として盲目の人間が登場することが多いですが、本作はそこが逆転しています。そこが面白いのですが、意図されたものはありましたか。


ヨン:むしろ目が見えないからこそ、美に執着するのだと考えました。極端で寓話的な設定ですよね。「見えないのに美しい文字を彫れる」というイム・ヨンギュのキャラクターは、多くの想像をかき立てる象徴的な存在です。そこがこの映画の最も面白い出発点になったと感じています。


Q:父子の関係を描きつつ、子の母に対する思いも描かれます。主人公はもちろん、母の同僚だった裁縫師の女性のエピソードも印象的です。親子の話が軸になっているような印象も受けますが、意図したものはありましたか。


ヨン:この物語を、単なる「過去の出来事」として終わらせたくありませんでした。過去の埋もれた真実に、今の世代がどう向き合うかを描くことこそが私の狙いです。1970年代を中心に生きた人々と私の世代の間には、互いへの関心の薄さや断絶があると感じています。そしてその断絶の裏には、「理解したくない」「蓋をしておきたい」という心理が大きく働いている。だからこそ、現代を生きる私たちがこの問題にどう向き合うかという、その問いかけが、この映画の真のテーマに結びついているのです。




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