© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
『ナギダイアリー』深田晃司監督 意味もなく続いてしまう日常にこそ、本質がある【Director’s Interview Vol.591】
意味もなく続いてしまう日常にこそ、本質がある
Q:作劇の上で事件に頼らずにいられたのは、奈義町という舞台がしっかり存在したからでしょうか。それとも、今の監督がそういう境地に達しているということなのでしょうか。
深田:今回、明確にそう感じてもらえたのだとしたら、自分にとっては嬉しい話なのかもしれません。ただ基本的なスタンスとしては、どの映画でも、劇的な瞬間とかエモーショナルな瞬間を描くことへの関心が薄いんですよね。エモーショナルな瞬間なんて、人生で0.何パーセントあるかどうかだと思うんです。人生の時間の99パーセント以上は劇的でもなければエモーショナルでもない。何気ない日常がダラダラと続いていくものだと思っているし、人生の本質はどちらにあるかというと、たぶんダラダラと意味もなく続いてしまう日常にこそ、何かしらの本質や実は葛藤があるんじゃないかという気がしているんです。
だから、これまでも物語の中で劇的な瞬間があったとしても、そこにあまりフォーカスしたくない。その前後の時間の方が大事だったと思っています。もしかすると、今回の物語は、たまたま劇的ではない時間にいつもよりもたくさんカメラが向いていたのかもしれないですね。
Q:監督のスタンスは同じかも知れませんが、これまでは物語を動かすために必ず1個ぐらいは事件を起こしていたと思うんです。子どもが亡くなったり、アイドルが訴えられたり。
深田:それはそうですね(笑)。そういった意味では、今回は最初から日常のスケッチで描いていくというスタイルに決めていました。大きくて劇的なドラマを描く必要はなく、9日間の流れていく時間を描いていくことが大事だと思っていました。

『ナギダイアリー』© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.
Q:最後にもうひとつだけ質問させてください。現実の「奈義町」と、映画のタイトルにもあるカタカナで書く「ナギ」はどれぐらい差異がありますか。
深田:ええと、あくまでもニアイコールです。基本的には架空の町「ナギ」っていうことにしているんですが、とはいえ奈義町をモデルにしている町であることは間違いない。でも、地方で少年たちが家父長的な因習から逃げ出そうとすることだったり、あるいはセクシャルマイノリティがカミングアウトしづらい環境であることなんかは、奈義町に限らず、日本中いろんな地域で普通にあると思うんですね。
フランスのカブール映画祭で上映した時にも、「フランスの田舎も同じだ」みたいなことを地元のフランス人から言われました。もちろん、日本は国際的に見てもカミングアウト率は低いので全く同じということもないとは思いますが、この映画で描いていることも、奈義町固有の問題にはしたくなくて、あくまでも架空の町の物語ということにした方がより普遍性を持ち得ると思ってカタカナにしました。
なんですけど……まあ、奈義町ですよね(笑)。映ってる景色は99パーセント奈義町だし、消防団のハッピにもバッチリ漢字で「奈義町」って書いちゃってますし。だからあんまり言い訳はできないんですけど、その土地に対する偏見をイタズラに醸成したくないという気持ちはすごくあるので、作る方も見る方も「架空の町です」と精神的な一線を保つことはすごく大切かなと思ってます。

監督/脚本:深田晃司
1980年生まれ、東京都出身。1999年、映画美学校フィクションコース入学。2005年、現代口語演劇を掲げる平田オリザ主宰の劇団・⻘年団に演出部として入団。2010年、『歓待』が東京国際映画祭「日本映画・ある視点」作品賞、プチョン国際ファンタスティック映画祭最優秀アジア映画賞を受賞。13年、『ほとりの朔子』がナント三大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。15年、平田オリザ原作の『さようなら』でマドリード国際映画祭ディアス・デ・シネ最優秀作品賞受賞。16年、『淵に立つ』が第 69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞、翌年、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。18年『海を駆ける』を経て、フランス芸術文化勲章「シュバリエ」を受勲。その他の監督作に、『よこがお』(19)、ドラマ「本気のしるし」(19/メ〜テレ)を再編集した『本気のしるし〈TV ドラマ再編集劇場版〉』(20/第73回カンヌ国際映画祭「Official Selection 2020」選出)、第79回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品『LOVE LIFE』(22)、カンヌ国際映画祭「カンヌ・プレミア」部門正式出品『恋愛裁判』(25)など。監督・脚本を手がけた最新作、『ナギダイアリー』は第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された。
取材・文:村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
『ナギダイアリー』
新宿ピカデリー、ユーロスペース ほか全国ロードショー
© 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.