豪華キャストの出演理由
Q:主役級の豪華なキャストの方々が出演されていますが、みなさんの出演の決め手を教えてください。
武井:小池さんは、「面白いのか面白くないのか全然分かんないけど、断ったら損する気がする」と言って受けてくれました。水上さんは、「これはコスパが悪い仕事だ」と(笑)。「もっとコスパのいい仕事はあるけれど、そんな仕事ばっかりやっていたら自分が薄っぺらくなってしまう」と言って受けてくれました。個人事務所の方が多かったこともあり、「これは面白い」と自分で選べる立場の人たちが共感してくれたのかなと。
Q:内容についてキャストから質問はありましたか。
武井:撮影時間はタイトだし、いきなり「新人監督vs4人の売れっ子俳優」ですから。あらゆる想定を踏まえて、各キャラクターの設定も作り込んだ上で現場に臨みました。それぞれの役の生い立ちから現在までの状況や、脚本に対する自分の解釈などを紙に書いてお渡ししたんです。佐々木さん演じる演出家の加藤に関しては、彼がこれまでに作ってきた舞台のあらすじを考え、手がけた作品の傾向の変化まで作りました。みなさん自由に演じてもらっていいし、脚本の解釈もそれぞれ自由で良いのですが、現場で何か質問された時にちゃんと答えられるようにしておきたかった。答えられないと格好悪いですし、それで現場が止まるのも嫌でした。それが功を奏したのかわかりませんが、そんなに質問も来なかったし、現場で話し込むようなこともなかったですね。
カメラ位置なども事前に細かく決めていました。撮影の渡邊さんとは脚本を一緒に作っていたので、彼からも色んなアイデアをもらいつつ現場に臨みました。実際の役者さんの動きを見て考え直す部分もありますが、事前にできることは全部やりましたね。カメラマンだけでなく助監督含めた他のスタッフにも「こういうことがやりたいんだ」という意図は共有していました。1日に10ページくらい撮っていたので(笑)、悩むことなくどんどん進めることができたと思います。

『本当にあった話(の話)』©鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
Q:夛田と脚本家の垣内が議論するシーンが多いですが、物語には直接的に関わってこないテーマ(陰謀論、選挙、リベラルと保守など)についても議論しています。そこに込めたものがあれば教えてください。
武井:ライムスター宇多丸さんと町山智浩さんが、映画『ハートロッカー』(08)についてラジオで揉めていたことがあって、それがすごく面白かった(笑)。色んな人がひとつの映画に対して「ああだこうだ」言うなんて、とても幸せなことだなと。また、「千夜一夜物語(アラビアンナイト)*」のように、物語の力によって人が治癒されることがとても美しく、そういう映画にしたいと以前から思っていました。
一般的に見たら、夛田は良くない方向に向かっているのかもしれませんが、物語の力を借りて自分を開示していくような。そういうことをやりたかったのかなと。でもだからといって、なぜあんなことになったのかは分からないのですが(笑)。
*千夜一夜物語(アラビアンナイト):妻に裏切られた王と、処刑を免れるために毎夜お話を語り続けた女性の物語。最終的に王は女性を許し処刑をやめる。
Q:演出家の加藤のカリカチュア具合が面白かったですが、同じ演出家として何か込めたものはありますか。
武井:僕も普段はテレビのディレクターをやっているので、「監督」とか言われると嬉しかったりするんです。急にロケ先のホテルがツインルームになったぞ、とか(笑)。だからそういうことはあるかもしれません。邪な気持ちもあるけれど作品に対して不真面目ではない。そんなニュアンスでしょうか。そう思って原作を読んでいた記憶があります。
Q:黒木華さんのダンスシーンも面白かったですが、どのように演出されたのでしょうか。
武井:映画の前半、水上さん、小池さん、佐々木さんが演じたキャラクターが勝手気ままにやるのに対し、黒木さんは受けの演技だと思うんです。それが後半あたりから、黒木さんが主役の映画に変わっていく。その切り替わる瞬間、黒木さん演じる米良の糸が切れる瞬間を描きたかった。そこが結果的に踊るシーンになりました。今お話しした意図は振り付けの先生にも伝えつつ、ダンスの内容は一緒に作っていきました。