フィクションはドキュメンタリーのように
Q:テレビマンユニオンでの番組制作の経験は生かされましたか。
武井:現場での振る舞い方から始まり、生かされたものはたくさんあると思います。誰が言ったかわからないウチの会社の格言があるのですが、「ドキュメンタリーはフィクションのように撮れ、フィクションはドキュメンタリーのように撮れ」と。ドキュメンタリーを撮っている時の方が、「あ、これってフィクションの映画につながるな」と思ったりするもの。例えば「情熱大陸」のようなドキュメンタリーで、対象となる人の膨大な素材を撮り、そこから「この人にはこんな一面があります」と抽出して道筋をつける作業は、かなりフィクション的だったりします。
今回の映画で、フィクションをドキュメンタリーっぽく撮れたかどうかはわかりませんが、自分からは出てこない発想を現場で取り入れたことは多かったですね。例えば、水上さん演じる夛田がインタビューを受けるシーンで、彼は座席の肘掛けをカンカン叩いているのですが、それは、撮影前に水上さんが何気なくやっていた動きから来ています。他にも、セリフは言い終わっているけれど、あと20秒「カット」をかけなかったらどうなるんだろうか。とか。そういった演出は多かったと思いますね。

『本当にあった話(の話)』©鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
Q:この映画の面白さに、コーエン兄弟のようなテイストも感じました。本作を作るにあたり影響を受けた監督や作品はありますか。
武井:コーエン兄弟の映画は撮影直前に観直しました。『ファーゴ』(96)の冒頭では「これは実話である」という嘘が入るんです。その辺は影響を受けていると思います。ヨルゴス・ランティモスも大好きなので、かなり意識しました。アキ・カウリスマキも同じく好きですね。他には『キング・オブ・コメディ』(82)『タクシードライバー』(76)なども参考にしています。
Q:伊丹十三さんや是枝裕和さんなど、テレビマンユニオン出身の映画監督は多くいます。武井さんも今後は映画監督として活動されていくのでしょうか。
武井:撮らせてもらえるのであれば、もちろんやりたいです。この環境はとても恵まれていて、映画を撮らなくても他の映像の仕事で生きていける。今は映画を撮らないと生きていけない人が多すぎて、魂のない映画が溢れてますよね。何年かかってもいいので、本当に面白いと思えるものだけを作っていきたいですね。

監督/脚本/編集:武井佑吏
1992年生まれ。群馬県高崎市出身。早稲田大学政治経済学部に入学、映画サークルに入り映画製作を開始。在学中に制作した『赤色彗星俱楽部』がPFFアワード2017日活賞及び映画ファン賞、第11回田辺・弁慶映画祭グランプリを受賞。本作はポレポレ東中野で公開され1週間、連日満員を記録。2017年、テレビマンユニオン参加。NHK『今夜の旅はドラマチック/プラハ編』が第37回ATP賞テレビグランプリ優秀新人賞を受賞。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『本当にあった話(の話)』
全国公開中
配給:東京テアトル/murmur
©鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会