コウモリ、ペンギン、猫、クリスマス
『バットマン』ではバットマンとジョーカーの闘いが描かれたのに対し、『リターンズ』ではバットマン対ペンギン、そこにキャットウーマンが加わって大騒ぎになる。普通ならバットマン対怪人たち、という構図になりそうだが、本作ではバットマン自身もほかのふたりと同類の怪人に見えてくる。それどころかペンギンを追い詰めるバットマンの容赦の無さはほとんど悪役のようだ。哀しきペンギンだけでなく、そんな冷淡なバットマンもぼくの好きなところ。
そのふたりとはまた違ったタイプでミステリアスなのがキャットウーマン。地味で不器用な秘書セリーナ・カイルは、上司マックス・シュレックの悪企みを知ったことでビルの上階から突き落とされて一度は命を落としてしまうが、猫たちの不思議な力により復活する。生まれ変わったセリーナは夜な夜なキャットウーマンになり、横暴な男たちをこらしめていき、やがて闇の騎士と対峙することになる。セリーナが家にあったもので手作りした全身レザー衣装の、あちこちつぎはぎになっているところがいかにもバートンらしいアレンジだ。
気づけばコウモリ、ペンギン、猫と、動物怪人たちが勢揃いだが、全員黒いというのが興味深い。紫色や緑色といったケバケバしい色彩に身を包んだジョーカーは黒づくめのバットマンと対立するイメージだったが、『リターンズ』の怪人たちは皆同じような色彩で揃えられて、同類であることが強調されているわけだ。劇中でもペンギンが、バットマンを自分と同じ怪物に仕立て上げようとして罠に陥れる。もはやヒーローや悪といった区別が薄められ、あるのはただただ怪物たちの招く混乱だけとなる。
ゴッサム・プラザの巨大なクリスマス・ツリーが点灯されるとともに、無数のコウモリがツリーの中から飛び散って人々が混乱に陥るが、ペンギンがバットマンの仕業と見せかけて仕掛けたものであるにも関わらず、実にバットマンらしいヴィジュアルで一種のカタルシスさえある。クリスマス・ツリーの周囲を黒々としたコウモリの群れが飛び交う画自体も、まさにティム・バートンのクリスマスといった具合である。すでに出来上がっているキャラクターの世界を、自分の世界観に引き寄せながら新しい作品を生み出す 創造力を尊敬する。