原発事故による風評被害を受けながらも農業を営み続けた、監督自身の祖父の姿を見て企画した映画『ハッピーアイランド』。今回の作品が初監督作品となる、福島県須賀川市出身の渡邉裕也監督に話を聞いた。
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体現したかった祖父の姿勢
Q:映画化のきっかけを教えてください。
渡邉:祖父が福島で50年近く農業を営んでいたのですが、震災後、風評被害等もあって農作物が売れなくなったんです。作ったものが売れなくて捨てなければならないという経験がそれまでになく、相当なショックがあったと思います。それでも祖父は、何の文句も言わず、誰のせいにもせず、これまで通り黙々と野菜を作り続けていました。野菜を作ることが自分にできることだという、そのスタンスを崩さずに生きている祖父が、とても格好良くもあり尊敬していたんです。
そんな祖父ですが震災の翌年に亡くなってしまい、その翌年には祖母も亡くなってしまいました。うちの家族では農業を引き継げなかったんです。それがやはりちょっと悲しいなと。。祖父たちが生きた証といいますか、彼らが教えてくれたあの生き方を少しでも体現できればと思い、この映画を作ろうと思ったんです。
Q:では実際に、監督のおじいさんの実体験が映画になっているわけですね。
渡邉:萩原さん演じた正雄が、夜に野菜に声を掛けてるところは、僕が実際に見たエピソードですね。正雄の生き方には祖父を投影しています。まあ実際は、映画のシーンみたいに格好良くはないですが。その背中というか、生き方の部分は嘘ではないですね。
Q:実際のエピソードを映画化する際に、気をつけたところはありますか。
渡邉:この映画をやろうとしたときに、福島の人がかわいそうだとか、震災にまつわるトラブルとか、そういうことを取り上げたいわけではなかったんです。彼らがああいう場所で生きながらも、どれだけ前を向いて生きているかとか、それでもあの土地に住んでいる理由、そしてそこでの彼らとの経験が、一人の人間を成長させてくれることなど、そういったものを感じてもらえるように心がけましたね。