大胆かつ精巧なミニチュアセットが 唯一無二のビジュアルを作る
『ごん』の舞台は主に里山。平台の上に、森林、河原、葦原などの自然の風景が作られる。カメラから覗いたとき、画が最も美しくなるように、カットごとに草や丘の配置を変えていく。
『ごん』では、美術セットに実物の草木を大胆に使っている。川べりを覆う葦は、長野県までススキの穂を収穫しに行き、数本ずつ束ねて、一定期間干したものだ。河原の底に沈んだ小石や、森の地面を覆う落ち葉も自然のものである。
通常、コマ撮りの撮影に生の草木は向かないとされている。撮影に時間がかかるため、草は時間経過とともに萎れたり、枯れたりしてしまいカットが繋がらなくなるのだ。木はよく乾燥させないと腐ったり虫がついてしまうなど、長期間の制作ではリスクが大きい。しかしそれらリスクを背負ってでも、人の手では作りきれない実物のディテールは、画面に密度とインパクトを与えている。
兵十がうなぎをとる川原は、実際にセットの中に水をはり、ポンプで循環させて川を作った。これもコマ撮り作品としては異例のことである。人形を水につけるリスク、アニメのコントロールのしにくさ、諸々の手間暇を考えたら、CGを選択するのが妥当に思える…しかし、そこをあえて実物で押し通してしまうのが八代監督なのである。
成果は確かに画面に表れている。流れきらめく水面の光、濡れて重くなった落ち葉の質感。揺らめく反射光が人形の顔を撫でる。そのリアリティは、一瞬これがミニチュアセットであることを忘れさせるほどだ。ぜひ本編を楽しみにお待ちいただきたい。
もちろん、自然物だけでは表現できないものも多い。美術スタッフが作る、ミニチュア造型の精巧さが『ごん』の世界観を支えている。中でも圧巻なのが、彼岸花の咲き乱れる丘だ。
画面いっぱいを埋め尽くす彼岸花は約2000本。スタッフが一年半かけて一本一本手作りした。気の遠くなるような作業である。魂のこもったディテールの美しさは、生の草木に負けず劣らず。
さまざまな工夫と技術、時間とこだわりを結集させ、ストップモーション作品では類を見ない独特の美しい自然風景を描き出す『ごん GON, THE LITTLE FOX』。制作中のカットやメイキング写真を見るだけでも、ワクワクしてこないだろうか?
次回からは各パートごとにテーマを設け、さらに詳しく制作工程を追っていく。お楽しみに!
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木彫りの表情が語りかけるーー人形にかける想い。国産ストップモーション・アニメ『ごん GON, THE LITTLE FOX』メイキングvol.2
なぜ、木彫りの人形にこだわるのか?監督インタビューを交えつつ、メイキング写真を公開。人形を動かす要となる球体関節ついても解説する。
取材・文:池浦 蓮介
1988年生まれ、東京都出身。
高校生の時に観た『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』をきっかけに、ストップモーションアニメの世界にのめり込む。
大学卒業後、映像制作業のフリーランスとして活動中。
『ごん GON, THE LITTLE FOX』
(新美南吉「ごんぎつね」原作)
2019年秋公開予定 上映時間:28分
制作・著作:太陽企画/エクスプローラーズ ジャパン
公式サイト: http://gon-project.com/
公式twitter: https://twitter.com/gon_tecarat