国産ストップモーションアニメ『ごん GON, THE LITTLE FOX』メイキング連載第二弾。
今回は物語の主役である、人形について掘り下げていく。
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なぜ、木彫りにこだわるのか
『ごん』の人形の特徴は、頭が木彫りで作られている点だ。
通常、中・長編の人形アニメのキャラクターの頭(かしら)は、粘土や樹脂、シリコンなど、修復や複製がしやすい素材で作ることが多い。撮影中に破損した箇所を補修したり、同じ人形を複数体用意することがあるからだ。昨今では『KUBO/二本の弦の秘密』などのように、3Dプリンターで出力することも珍しくなくなってきた。
木彫りで作る場合、材の木目が一つ一つ違うのだから、全く同じものを作ることは不可能である。あえて木彫りの一点物にこだわる理由とは何なのか。八代監督に聞いた。
八代監督(以下:八代):「以前は、樹脂(プラスチック)粘土で人形の頭を作っていたこともあります。木彫りにしたのは、過去作『眠れない夜の月』(15)のときから。そのとき最初キャラクターの顔を樹脂粘土で試作したら、何だかつるっと綺麗なものができてしまって、それがいまいち気に入らなかった。そこで前からやってみようと思っていた木彫りに切り替えました。
なぜ木を選んだかというと…もし、僕が自分の家に彫刻を飾ろうと思ったら、プラスチックのフィギュアは選ばないんですね。でも仏像だったり、木で作った人形なら、置いてみようかなという気になる。
僕個人の感覚では、樹脂の素材感に魅力を感じてないんだと思います。もっと擦れたり割ったり削ったりしたときにおもしろくなる、僕が魅力を感じられる材質を選びたかったんです」
『ごん』の登場人物の頭はすべて監督自ら彫り上げている。彫刻をする上で参考にしたものはあるのだろうか。
八代:「高村光太郎と船越桂さんの彫刻。木という素材がものすごく主張しているのに現実よりもリアル。リアルって何だろうと考えさせられます。
素材感と描写の両立には、モチーフの中に『作者にとってのリアル』を見つけないといけないことを学びました。でも、どちらもサイズ感が全く違うので、そのまま真似することはできない。例えばノミ跡の残し方にしても、人形サイズにスケールダウンするとノミ跡は大きく見えますから。」
一つの頭を作るのはどのくらいの時間がかかるのだろうか。
八代:「脇役の人形は、彫るだけなら1〜2日くらい。そのあと、彫った頭を半分に割って中をくり抜いて、目玉がある人形なら目玉を仕込み、身体と接続する機構を仕込みます。
表面の処理にはかなり手間をかけている。ウェットな(しっとりした)感じにする部分と、乾いて抵抗感(硬い質感)があるように見せたい部分とを、塗料を使い分けながら染め分けます。何体も並行して進めていくので、一体に何日かかるかはっきりしたことは言えません。」
キャラクターの個性によって、しっとりとした部分と乾いた部分の比率を変えたり、ノミ跡の残し方も変える。バランスを見つつ感覚的に質感をコントロールする作業は、人に任せることはできない。監督の話を聞いていると、まるで絵画を描くように人形を作っている、と思った。