『箱入り息子の恋』(13)の市井昌秀監督が12年間あたためてきた“両親への想い”をヒントに創作したオリジナル脚本作品『台風家族』。描かれるのは、生まれ育った地元を離れた兄弟が10年ぶりに帰省し、再会した際に巻き起こる“珍”騒動! お笑い芸人から映画監督へとキャリアを辿ってきた市井監督に、本作の製作について話を伺った。
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自分を投影した登場人物たち
Q:本作は、市井監督が12年間温めてきたオリジナル作品だと伺いました。「家族」というテーマに至ったきっかけは何だったのでしょうか。
市井:12年前、私は東京で暮らしていたのですが、その時すでに実家の富山を出てから10年以上経っていたんです。富山に両親を二人きりで残してしまっていることに、罪悪感みたいなものを感じ始めていました。ちょうどその頃、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)のスカラシップ挑戦権を勝ち取ったので、それで親子がテーマの映画を作って届けてあげたいなと思ったんです。
Q:それで家族の話になったんですね。
市井:当時の企画は今のものとは全然違っていますけどね。その時の設定では、葬儀屋を営んでいる老いた男女がいて、その老人たちをメインで描いていました。ただ当時は、30歳そこそこの自分がそんな老人たちを描くことはなかなか難しく、企画は通らなかったんです。
それから何年か経った後、舞台演出のお話をいただきまして、その時にこの企画のことを思い出したんです。そこで考えついたのは、老夫婦が失踪した後に残された家族の話でした。それが今回の映画の原型になっている感じですね。
Q:「葬儀」はどうやって出てきたのでしょうか。
市井:葬儀屋を営んでいるのが、死期が近い老人だと、ずっと死を連想させることができるなと思ったんです。そこが着眼点でした。また、葬儀の後の遺産相続の争いは、人間の醜い部分が表面化される状況だなって思ったんです。兄弟間のむき出しの争いみたいなものも描きたかったこともあり、そういう意味で「葬儀」って使いやすいと思ったんです。
Q:映画に出てくる兄弟たちは皆かなり個性的です。モデルはいたのでしょうか?
市井:この兄弟たちには僕を投影しているんです。例えば、草なぎ剛さん演じる長男の小鉄とか、中村倫也さん演じる三男の千尋とかは非常に僕に近いですね。次男の京介は、僕の実際の弟にすごく近いです。
弟は神童って言われるくらい賢くて、身長も中学のときに僕を抜いちゃったんです。今は海外にいるんですけどね。身長差のある長男次男ってところは、キャスティングにも反映したつもりです。兄弟だけじゃなく、相島一之さんが演じる銀行員の山田や、後半に出てくる謎の女・月子も、自分を投影した部分はありますね。