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鬼才、井口昇が作りあげた傑作青春映画『惡の華』。原作と完全にシンクロした監督の思いとは?【Director’s Interview Vol.42】

鬼才、井口昇が作りあげた傑作青春映画『惡の華』。原作と完全にシンクロした監督の思いとは?【Director’s Interview Vol.42】

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絶妙なバランスでマンガのキャラクターを演じたキャストたち



Q:春日を「クソムシ」と呼んで翻弄する仲村さんというキャラクターは、作品のキモだと思うのですが、すごく極端な少女なので実写化するとどうなるか実は心配でした。彼女のセリフのニュアンスがちょっとでも変だと観客に嫌悪感を抱かせかねない。でも演じた玉城ティナさんが絶妙なバランスで表現されていたと思います。


井口:そうですね、僕も仲村さんのキャラクターは実際の役者さんが演じた時に嘘っぽくなったらマズいと思ったんです。それで春日役の伊藤健太郎さんと玉城さんで初めて本読みをやる時に「とにかく一回自由に、やりたいようにやってみて下さい」とリクエストしました。その時に玉城さんが演じた仲村さん像というのが、僕の頭の中にあったイメージと若干違う所もあったんです。でも一方で、ちゃんと地に足がついているというか、実在しているキャラクターになっているとも思えたんです。それで「これは、いけるんじゃないか」と感じました。


仲村さんというキャラクターは単なるヒステリーとかメンヘラの人に見えちゃいけないんです。思春期の男の子が魅かれて一緒に地獄に落ちていく役なので。やっぱりチャーミングで魅力的な人物じゃないと駄目です。玉城さんにもそれはすごく言いました。なるべく魅力的で可愛く見える、小悪魔感。そういうのを出してもらえると良いと伝えていましたね。




Q:主人公・春日役の伊藤健太郎さんも素晴らしいと思いました。伊藤さんは監督が希望したキャスティングだったんですか?


井口:そうなんです。でも実は「春日役は誰が演じればいいんだろう」とずっと迷っていた時期があって。春日という役も特殊な役で、徹底的な「受け身感」とか「マゾ感」というのを表現できる役者さんは誰がいいんだろうとずっと考えていました。そんな時に『覚悟はいいかそこの女子。』(18)で仕事をした伊藤さんを思い出しました。伊藤さんは普段は結構明るく元気な人なんですけど、すごく文化部の少年の仕草をやるのが上手だなと思って。「人の良さ」と憑依型の演技力で、春日役に合っているんじゃないかと思ったんです。


あと、これは僕の解釈なんですけど、『惡の華』という物語は、純朴に見える春日が3人の女の子を無意識に翻弄しているところがあると思うんです。そんな春日を演じる人にはオーラがないといけないんじゃないかと思ったんですね。そうすると、やっぱり伊藤さんには3人の女の子を無自覚に振り回すオーラ、説得力のようなものがあると思ったんです。


Q:伊藤さんへの演技指導について監督が特にこだわったポイントは何ですか?


井口:まず「中学生パート」と「高校生パート」の差をつけたいとお願いしましたね。中学生パートの時の、とにかく無垢で何もわかってない男の子の流されるままの感じと、「高校生パート」でのトラウマを負ってしまった男の子のギャップを演技で見せて欲しいと。


あとは立ち方。彼は実際には身長が高いので、できたら中学生に見える芝居、そう見える体の動きをして欲しいというのがありました。高校生パートの時は心に傷を負ってしまった人の表情を、常に意識して演じてもらいました。そこは見事にやっていただいたと思いますし、中学生パートと高校生パート両方を同じ日に撮影したこともあったけど、そこを演じ分けたのはやっぱりすごいと思います。




Q:主人公の春日は、最初無理な命令をする仲村さんに反発しますが、後半ではどんどん惹かれていき、友情とも違う特殊な関係性を築きます。あの辺の心理というのは、監督は恋愛感情だと思われますか?


井口:押見先生はマンガ「惡の華」を、恋愛ものとして捉えられたくないとおっしゃっていました。春日と仲村さんの関係性は恋愛感情と言うよりも「共感」に近いものだと。僕も確かにそう思うんですけど、共感なのか恋なのか、その線引きって人間心理としては曖昧じゃないですか。だから僕は恋というよりは、「この人を何とかしてあげたい」、「一緒に地獄に落ちてもいい」という、無自覚な心情なんじゃないかなと。本当にこの人に言われたら戦場で戦死してもいいという感情。でもそれは本人にも分からない・・・。そういうものが描けるといいなと思ったんですよね。


Q:春日が恋をする佐伯さんを演じた秋田汐梨さんは、撮影当時高校1年生ですが、河原のダンボールハウスで春日に迫る、性的にきわどいシーンを見事に演じています。


井口:秋田さんはオーディションで選んだんですけど、ずば抜けていました。若手の女優さんは明るくて可愛いクラスのマドンナを演じるシーンはできるんですよ。でも「がっかりした」とか「あの子も不幸にするの?」という複雑な心境の台詞を言うときに、やっぱり10代の女の子は急にできなくなるんですね。形だけになって深みのある言い方が出来なくなるんですけど、それを秋田さんだけができていたんですよ。できていたと言うか…何ですかね。不思議なオーラを持っていた方で。一言でいうと、「分かっているようで、分かっていない。でもやっぱり分かっている…、でも分かっていない」(笑)。どっちなのか、掴みどころのない雰囲気があって。それは現場でもそうで、あのダンボールハウスのシーンも本人は割とケロっとしているんですね。でも後で編集していて秋田さんの芝居には驚かされました。こんな細い深みのある表情をしていたんだと思って。





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