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『エルム街の悪夢』フレディ・クルーガーがもたらした大成功とは

(c)Photofest / Getty Images

『エルム街の悪夢』フレディ・クルーガーがもたらした大成功とは

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恐怖の理論が産んだフレディ・クルーガー



 ナイフの爪が付いたグローブを右手に着け、中折れソフト帽に焼けただれた顔の男が着ているのは赤と緑のストライプのセーター。『エルム街の悪夢』シリーズを牽引する殺人鬼「フレディ・クルーガー」のその姿は、今でこそ見慣れているが、初めてその奇妙なコーディネートを見た人々は大いに困惑させられた。特に彼が着るセーターに。


 「赤と緑」といえばクリスマスに多用される色の組み合わせだ。しかし、クリスマスの場合は、例えば赤をベースにして緑を差し色として少なめに使ったり、白をメインに赤と緑が彩りを添えるような配色・配分にするものだ。同じ面積、同じ彩度で赤と緑を隣り合わせて配色すると、互いの色が補色関係になってしまい、目にチラつく不穏な印象を与えてしまう。


 フレディのセーターは意図的に、あえて同じ彩度の赤と緑が同じくらいの面積になるようデザインされている。もちろん観客に不穏さを与えるためだ。


『エルム街の悪夢』予告


 ウェス・クレイブンは人文化学の教授として大学で教鞭をとったこともある知識人である。特に心理学への造詣は深く、その知識を用いてフレディを設計したのだ。そして、クレイブンの知識が活かされたのはセーターだけでは無い。


 劇中、生きていた頃のフレディは、ペドフィリアの連続殺人鬼という「絶対的に悪い」人物で、近隣住人によってリンチに合い、焼却炉に閉じ込められて焼き殺される。リンチに関わった親たちは共通する秘密を持ち、もちろん子供たちには隠される。


 子供が持つ恐怖の一つに「蚊帳の外に置かれる」ことがあるだろう。察する間も無くいつのまにか親の離婚が決まっていたとか、引っ越しが決まっていた、などといった、子供にはどうしようも無い決定事項はたいがい「子供は早く寝なさい!」と寝室へ促された後にされるものだ。つまり、抗えない(おおよそイヤな)決定事項は寝ることを強要された後に決まるのである。


 加えて「言った事を信用してくれない」というジレンマがある。夢の中にしか現れないフレディは、目撃してしまう本人以外にとって、確認のしようが無い荒唐無稽な妄想にしか聞こえない。


 子供は暗闇のコントラストが生む「何かに見える」異形の影を「怪物」だと認識する。大人はそれが子供特有の空想の産物だと適当にあしらってしまうが、子供にとっては真に迫った恐怖である。しかも、誰に伝えてもまともに聞いてはくれない。守護者である親に伝えても取りつく島もなく、やはり「早く寝なさい!」とあしらわれる。


 クレイブンは「寝る」ことにまつわる、誰しも一度は感じた様々なジレンマや恐怖をフレディ・クルーガーに込めたのである。




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