2020.05.05
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パンデミックを予言的に描いたゾンビ映画の傑作
ウイルスへの感染を避けるため、なるべく家に閉じこもり、食料を調達する時にはマスクをし、他人とあまり接触しないようにしながらスーパーへと向かう…。そんな時ふと思う、「ゾンビ映画がもし現実になったら、こんな感じなのかも…」。
50年以上前に製作されたゾンビ映画の始祖『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(68)を見て気付かされるのは、2020年5月現在の社会状況に絶妙にフィットしていることだ。コロナウイルス禍で家に閉じこめられた人々は、さながらゾンビから身を守る登場人物たちのようだし、人から人へ伝染するウイルスはゾンビそのものだ。かねてよりゾンビ映画はパンデミックのメタファーであることは明らかだったが、実際にそうなった世界を目の当たりにすると、ゾンビの優れた批評性がいやます。
もう一つ今回の状況と『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』との共通点で気づかされたのは、「なぜゾンビが発生したのか?」という災厄の原因がはっきりしないことだ。映画では、金星探査衛星が放つ放射線が影響しているのでは…、ということがさりげなく触れられるがはっきりしない。コロナウイルスは実は、武漢のウイルス研究所が発生源ではないのか?という憶測と、それに伴う報道が行き交う現在の状況を嫌でも連想してしまう。
『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は、その人がおかれた状況や時代によって、いかようにも解釈できる奥行きを持つ作品であり、それが大きな魅力を放つ所以だ。そして映画史的に観た時、その最大の功績は「モダンゾンビ」を生み出したことだと言えるだろう。