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『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』映画界を席巻する「モダンゾンビ」はいかにして生まれたか

『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』映画界を席巻する「モダンゾンビ」はいかにして生まれたか

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ゾンビが持つ社会への批評性



 『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は白黒の自主映画で残酷度も高かったため、深夜の劇場や、ドライブインシアターでの公開がメインだったが、大ヒットを記録。伝説的なカルト映画となっていく(日本では劇場公開されなかった)。そして、時が経つにつれロメロはゾンビの新たな可能性に気づくことになる。


 68年当時はベトナム戦争の最中。さらにアメリカ国内では迫害されてきたマイノリティが基本的人権を勝ち取るための公民権運動が燃え上っていた(ロメロは完成した映画のフィルムを持ってニューヨーク向かう車中でキング牧師暗殺のニュースを聞いた)。そんな中公開された『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は、社会への異議を、それまでになかった「ゾンビ」というツールを使って表明する革命的な作品として一部から熱狂的に迎えられたのだ。


 その大きな要因の一つには主役を務めたデュアン・ジョーンズが黒人だったこともある。彼は、一軒家に立てこもった白人たちを指揮し、自らを裏切ろうとした白人男性を殴り倒す。68年当時、黒人と白人をこのように描くことは衝撃的で、公民権運動のメタファーだと多くの観客に捉えられたのだ。(ロメロは黒人のジョーンズを主役にしたことに政治的な意図はなく、偶然だったと述べている)




 ジャン・リュック・ゴダールはこう言っている。


 「良い映画がヒットする唯一の条件は誤解されることだ」。


 世間の評価が誤解に基づく偶然にしろ、ロメロはゾンビというキャラクターが、社会を批評する際に、かなり有効に機能することを発見した。そして、それを以降のゾンビサーガでは意図的に実践していくことになる。


 『ゾンビ』(78)ではショッピングモールに立てこもる主人公たちを通して、消費社会の空疎さを皮肉り、『死霊のえじき』(85)では新自由主義的な政策で高圧的に弱者を切り捨てるレーガン政権を揶揄した。格差社会をテーマにした『ランド・オブ・ザ・デッド』(05)では、意思のある集団へと進化するゾンビを描き、ゾンビのリーダー、ビッグ・ダディに黒人俳優をキャスティングした。これは『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』で人間のリーダーを演じたジョーンズが、ここではゾンビたちを指揮することになったという、40年越しに作品世界をリンクさせた皮肉な展開とも解釈できる。


 『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』から50年、ロメロの作りあげた「ゾンビ」は映画やドラマで拡散しつづけ、いまや一つのジャンルと言ってもよいくらに定着している。なんと言ってもあのジム・ジャームッシュさえもがゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』(19)を撮ってしまうのだから…。


 そんな「ゾンビ現象」のグラウンド・ゼロとも言える『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』だが、実は不幸なことに、公開時に著作権保護の適切な手続きをしなかったためパブリックドメインとなり、ロメロには全く権利がなく、これまで勝手な上映やソフト化が幾度となく行われてきた。ロメロや製作者たちには全く気の毒な話だが、幸か不幸かそのおかげで『ナイト~』はまさにウイルスのように世界の映画界にパンデミックを引き起こし、今日の「ゾンビ」の一般化に貢献したともいえるだろう。それもまたロメロの作品群に通底する皮肉な展開として見れば興味深い。



参考文献:「ゾンビ・サーガ ジョージ・A・ロメロの黙示録」(野原祐吉/ABC出版)

     「ゾンビ映画大マガジン」(伊藤美和 編/洋泉社)



文: 稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。



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『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』

Blu-ray発売中 3,800円 (税抜)

発売・販売元:(株)ハピネット

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