『ゾンビ』あらすじ
突如、死者が生き返り、生きている人間を襲い始めた。甦った死者=ゾンビは生者の肉を喰らい、喰われた者も彼らの仲間として甦る。世界は地獄と化した。TV局勤務のフランシーン、パイロットのスティーブン、SWAT隊員のピーターとロジャーは、ゾンビが増え続ける中、ヘリで都市からの脱出を試みる。ようやくたどり着いた郊外の巨大なショッピングセンターで束の間の平和を得るが、ロジャーがゾンビに噛まれてしまう。やがてロジャーは死に、ゾンビとなって生き返った。ピーターの銃弾が、彼を永遠の眠りにつかせた。同じ毎日の繰り返しで、倦怠感を感じ、しだいに生きがいを失ってゆく三人。そこに、狂乱の世界を生き延びてきた暴走族が、物資を求めて乱入してきた。バリケードが破られ、大量のゾンビたちもなだれ込む。ピーターたちと暴走族、そしてゾンビの三つ巴の戦争が始まった。
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総数3,000ショットに及ぶスピーディな編集
ゾンビ映画のゴッドファーザー、ジョージ・A・ロメロの代表作『ゾンビ』(78)を観ると、誰もが大きな特徴を感じる部分がある。それは人間を襲い、ネズミ算式に仲間を増やすゾンビの恐怖もさることながら、生存者がゾンビを倒し、巨大ショッピングモールの占拠をなそうとする物語の快楽性だ。その下支えとなるのは、異常なまでにテンポのいい「編集」である。
映画の経年劣化というのは、この編集にこそ感じやすい。近年のものほど全編を構成するショット(切れ目のない映像の断片)の数が多く、テンポはスピーディだ。これが昔のものになると構成ショットは控えめで、作品は悠然とした印象を観る者に与える。ところが『ゾンビ』の場合、全編を構成するショットの総数、一般で言う「カット割り」が40年前の作品にもかかわらず、とてつもなく多いのだ。2時間7分のランニングタイム(上映時間)において、じつに約3,033ショットという小刻みな編集で映画が作られている。
『ゾンビ』(C) 1978 THE MKR GROUP INC. ALL RIGHTS RESERVED.
筆者実測なので多少の誤差はお許し願いたいが、この3,033という数がいかに多いかは、比較対象があるとわかりやすいだろう。例えば『ゾンビ』と同時期のものだと、初公開時「戦闘シーンのテンポが従来に比べて早い」とうたわれた『スター・ウォーズ』(77)でさえ、2時間2分のランニングタイムでショットの総計は約2,128にとどまっている。
さらに最近のアクション映画を例に出すと、トム・クルーズ主演の人気シリーズ5作目『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(15)の場合、2時間11分で構成ショットの総数は約2,848。なんと4分短い『ゾンビ』のほうが上回っているのだ。アナログからデジタルへの転換にともない、編集は物理的にフィルムを刻んで作業をおこなう「リニア編集」から、HDDに取り込んだ映像をコンピュータ上でつなぐ「ノンリニア編集」へと手法が変わった。そしてカメラもデジタル化され、記録容量の増大と共に映像素材も膨大なものとなって、編集がもたらすショット数は増加傾向にある。そのような状況下で生まれた最先端のアクション映画と比較しても、『ゾンビ』のショット数と編集テンポは特殊なものだということがわかるだろう。