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『恋におちたシェイクスピア』に於ける脚本の妙。虚実の中から紡がれる真実

(c)Photofest / Getty Images

『恋におちたシェイクスピア』に於ける脚本の妙。虚実の中から紡がれる真実

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恋人たちの囁きが『ロミオとジュリエット』へと繫がる



 自作の舞台で自らロミオを演じることになったシェイクスピア、そして、ジュリエット役の少年が突如変声期になったため、結婚式を挙げたその足で劇場に駆けつけたヴァイオラが、ジュリエットを演じることになる。つまり、ヴァイオラは男装のロミオではなく、今度は女装した男優としてジュリエットを演じることになるのだ。


 このジェンダーフリーを絵に描いたようなシチュエーションもさることながら、劇中、恋におちた2人が交わす言葉の数々が、そのまま「ロミオとジュリエット」の台詞にリンクしていく件が圧巻だ。



『恋におちたシェイクスピア』(C) 1998 Miramax Film corp. and Universal Studios. All Rights Reserved.


 スランプの極致にいたシェイクスピアが、突然目の前に現れたミューズによって創作意欲を取り戻し、私生活での恋愛感情を台詞に反映させていく。本作が映画関係者の中でも特に、作家や脚本家から高く評価された理由は、彼らが日々取り組んでいる創作の苦悩と理想が、しっかりと描かれているからだ。まさに、それは史実を基にした虚構がもたらす真実。『未来世紀ブラジル』(85)や舞台『リアル・シング』(82)等で知られる脚本家、トム・ストッパード(マーク・ノーマンとの共著)の最大の功績だ。ストッパードたちのアカデミー脚本賞受賞は当然の結果だったのである。



様々なアカデミー賞伝説



 さて、アカデミー賞の話はどうしてもしなくてはいけない。それは、もはや伝説になっているからだ。エリザベス1世を演じたジュディ・デンチが、出演時間たった約8分でアカデミー助演女優賞を受賞してしまったことも今や伝説だが、同第71回アカデミー賞で、大方の予想を裏切って本作が作品賞をゲットしたのは、今や語り草である。


 会場にいた多くのアカデミー会員たちが予想していたのは、すでに監督賞以下5部門に輝いていたスティーブン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(98)だった。しかし、セレモニーのラスト、悠然と登場したプレゼンターのハリソン・フォードが読み上げたのは、『恋におちたシェイクスピア』だったのだ。



『恋におちたシェイクスピア』(C) 1998 Miramax Film corp. and Universal Studios. All Rights Reserved.


 これは、ノミネーション発表以来、大々的なキャンペーンを展開して(一説にはその資金は1,500万ドルに上ると言われる)アカデミー会員に作品を売り込んだミラマックスの創始者、ハーヴェイ・ワインスタインの作戦勝ち。結果、『恋におちたシェイクスピア』は作品賞を含めて計7つのオスカーを獲得。それはワインスタインの名が改めて業界に轟いた瞬間だった。



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