デニーロは相手役にストリープを欲した
本作の成功を可能にさせたのは、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技であることは言うまでもない。『ローズ』(79)や『マルコムX』(92)等で知られるプロデューサーのマーヴィン・ワースは、普通の男の日常を正しく演じられるという理由から、デニーロをフランク役に抜擢。そして、そのデニーロがモリー役に希望したのは、『ディア・ハンター』(78)以来、何らかの形で再共演を模索していたストリープだったという。
デニーロのラブコールに対し、「2人とも本物の何かを模索していた」とストリープが応じ、クランクイン前から綿密な準備がスタートする。それらは、主にデニーロ主導によるものだった。
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まず、各キャラクターの名刺をわざわざスタッフに作らせ、俳優たちに役の背景をよりリアルに擦り込ませる。脚本家のクリストファーに、彼と妻との日常会話を文字に起こしてもらい、夫婦のリアルな会話の参考とする。また、撮影前の2ヶ月間は、デニーロとストリープが週一ペースで会い、役について話し合いを持ち、脚本の細部に手直しが加えられる。こうして、細部にまで神経が行き届いた、説得力のあるストーリーが構築されていった。