2019.10.23
Index
- クリスマス・シーズンに公開された珠玉の家族映画
- 自分自身と真正面から向き合うことがいちばん難しい
- 演技経験ゼロの子役をオスカー候補にまで導いた演技指導
- ジャスティンに“泣く”演技をもたらした高度すぎるメソッド
- 当時、深い悲しみの中にあったメリル・ストリープ
クリスマス・シーズンに公開された珠玉の家族映画
1979年12月に全米公開された本作は、家族とともに穏やかに過ごすこのシーズンに打ってつけの作品だった。
本作が問いかけてくるものは実に多い。家族とは何か。理想の家庭とはどんなものか。夫は仕事に情熱を捧げ、妻は家事や子育てに専念するものなのか。二人の心はどこですれ違ったのか。どうすれば分かり合えるのか。こんなに息子のことを愛しているのに、どうして夫婦は争わなければならないのか・・・。
結果的に、社会現象と呼べるほどの大ヒットを巻き起こした背景には、観客にとってこれらの問題が、全くの他人事とは思えなかったという事情があるのだろう。誰もが心のどこかで我が身に置き換えて受け止め、何が家族にとって最善の道なのか、自分たちならどうしただろうかと答えを模索しようとした。その意味で、これは70年代の終わり、80年代の始まりの空気を的確に捉えた、観客にとっての「私たちの作品」だった。
アカデミー賞では作品賞をはじめ、主演男優賞(ダスティン・ホフマン)、助演女優賞(メリル・ストリープ)、監督賞、脚色賞を受賞。さらに愛らしい息子役を演じたジャスティン・ヘンリーが8歳にして助演男優賞にノミネートされたことも、大きな話題となった。原作はあるにはあるが、この作品に限って言えば、それを基盤にした上でのさらなる飛躍ぶりが素晴らしい。まさに参加した全員の功績とでも言おうか。製作の裏側に目をやると、そこには役者陣とスタッフが一丸となって臨んだ、もうひとつのドラマが広がっていたのである。