※2019年5月記事掲載時の情報です。
『卒業』あらすじ
大学を卒業したベンジャミンは、卒業記念パーティーで誘惑かけてきた中年女性ロビンソン夫人と逢瀬を重ねることに。だが彼女の娘エレインが現れた事で、その関係は崩れていく。両親のすすめで幼なじみのエレインと付き合うことになるベンジャミンは、徐々に彼女を愛するようになる。一方、そんな若い2人に嫉妬するロビンソン夫人は娘に不倫関係を暴露するーー。
Index
- 4Kで蘇るアメリカン・ニューシネマ
- ニコルズが大爆笑したホフマンのアドリブ
- 主人公の心情を代弁するテクニカルな演出
- これも文字通り"アメリカン・ニューシネマ"
- ベン役がロバート・レッドフォードではなかったわけ
4Kで蘇るアメリカン・ニューシネマ
4Kデジタルで修復された『卒業』(67)は、本サイトでも以前書いた『俺たちに明日はない』(67)や『明日に向って撃て!』(69)と同じく、"アメリカン・ニューシネマ"としてカテゴライズされる。しかし、何から何まで親に依存してきた箱入り青年が、親の猛反対を押し切って、初めて自分の意思で新たな道を歩み始めるという物語は、一見、希望に溢れていて、いわゆるニューシネマらしくない。
それでも、映画全体に漂う殺伐とした雰囲気は、コメディとして秀逸な演出が随所に施されているものの、独特の苦い後味を観客の喉元に残す。単なる名作の復刻に収まらない、今に通じるテーマがあるからこその4K修復版なのではないかと思う。
『卒業』予告
本作で画期的な演出を施した監督のマイク・ニコルズは、リー・ストラスバーグの下でメソッド演劇法を習得、ブロードウェー・デビュー作「裸足で散歩」(63╱後に映画化)で、いきなりトニー賞・演劇部門の演出賞に輝いた。その後の映画第一作『バージニア・ウルフなんかこわくない』(66)では、アカデミー主演女優賞(エリザベス・テーラー)ほか5部門を制覇。その際、メディアはニコルズを"オーソン・ウェルズの再来"と絶賛、劇中の台詞に散りばめられた性的表現は容認され、アメリカ映画を長く拘束してきた検閲制度"ヘイズコード"が、この作品を機に撤廃されたとも言われている。ニコルズはアメリカ・エンタメ界の寵児だったのである。